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作成: 1997/12/26 武藤 利雄

データ番号   :010101
中性子捕獲ガンマ線分析法による環境汚染物質の分析
目的      :中性子捕獲ガンマ線分析による環境汚染物質の分析
放射線の種別  :中性子
フルエンス(率):2x107ncm-2s-1 
線量(率)   :252Cf(500MBq)
照射条件    :大気中、室温
応用分野    :ボアホールにおける地下検層分析、ベルトコンベア上の石炭、鉱物のオンストリーム分析、工業材料の流れのオンストリーム分析、空港における爆薬検知

概要      :
 カリフォルニウム-252中性子線源を利用した中性子捕獲ガンマ線分析装置を開発し、これを環境試料の分析に応用した。この装置は、熱中性子捕獲反応に伴って放出される即発ガンマ線を測定し、そのスペクトルから元素分析を行うためのものである。この装置を使用することにより、環境試料中の多くの汚染元素の分析が可能なことを明らかにした。

詳細説明    :
 
 中性子による核反応で原子核を励起状態にし、その際瞬時に放出されるガンマ線(即発ガンマ線)をゲルマニウム半導体検出器などでスペクトルを分析することによって、元素を分析することができる。これは即発ガンマ線が元素固有のエネルギーを有することを利用したものであり、中性子捕獲ガンマ線分析または即発ガンマ線分析という。ここでは、カリフォルニウム-252中性子線源(500MBq)を利用した中性子捕獲ガンマ線分析装置を開発し、環境試料の一つとしてボアホール中の元素分析に応用した例について述べる。
 
1、中性子捕獲ガンマ線分析装置
 中性子捕獲ガンマ線分析装置は図1に示すように、1mx1mx1mの木箱の中心にボアホール測定用プローブが納められたものである。プローブは内径158mm、長さ1000mm、厚さ5mmの管の一方の端に高純度ゲルマニウム半導体検出器を装着したものである。検出器の周りには散乱中性子線を除去するため、6Li濃縮 Li2CO3、パラフィン、カドミウム板を合わせた吸収材で覆ってある。線源からの中性子線を避けるため、図2に示すように内径158mm、長さ300mm(両端は円錐状になっている)の鉛が入れてある。この左端に78mmx50mm、深さ178mmの穴の開いたポリエチレン製の線源ホルダーが装着されている。ポリエチレンは中性子の減速のために使用している。
 
 ステンレスで密封されたカリフォルニウム-252線源は6mmφx60mmのポリエチレン容器に入れ、図2の線源ホルダーに挿入する。線源と検出器の距離は約640mmとなり、検出器に到達する中性子は無視できる。


図1 A sketch of the sample container(geometry and source detector shield tube).(原論文1より引用。 Reproduced from Radiation Physics and Chemistry, 47, 719-722 (1996), Fig.1a(p.720), A.S. Abdel-Haleem, M.A. Abdel-Samad, R.A. Zaghloul and A.M. Hassan, The Uses of Neutron Capture γ-rays in Environmental Pollution Measurements; Copyright(1996), with permission from Elsevier Science. )



図2 A schematic diagram of the borehole assembly.(原論文1より引用。 Reproduced from Radiation Physics and Chemistry, 47, 719-722 (1996), Fig.1b(p.720), with permission from Elsevier Science.)


2、試料調製
 液体試料および固体試料に対してはそれぞれポリエチレン瓶又はポリエチレン袋を用いる。固体試料はあらかじめ適当なメッシュサイズに粉砕する。液体の環境試料では、これから得られる即発ガンマ線のエネルギー校正のため、各種濃度のNaCl溶液500mlを用いる。NaおよびClの中性子捕獲反応に伴う即発ガンマ線を使って、10MeV以下のガンマ線のエネルギーを校正する。即発ガンマ線スペクトルの測定には、4096チャンネル波高分析器付き高純度ゲルマニウム検出器測定システムを使用した。
 
3、分析例
 上述の装置および検出器を使って、ナイルデルタ(エジプト)のMonzala湖から採取した水試料を測定し、得られた即発ガンマ線スペクトルを図3に示した。このスペクトルは7時間測定したものであり、約60本のガンマ線が検出されている。その結果、N,Si,P,S,Cl,K,Ca,V,Mn,Fe,Ni,Cu,Zn,Kr,Y,Zr,Cd,Hg,Pb,Pr,Sm,Gdなど、22元素が同定される。


図3 Prompt γ-ray spectrum of a sample taken from Manzala Lake. The γ-ray lines are labelled with the corresponding elements. The spectrum has been collected for 7h using the PGNAA designed facility.(原論文1より引用。 Reproduced from Radiation Physics and Chemistry, 47, 719-722 (1996), Fig.2(p.721), with permission from Elsevier Science. )


4、まとめ
 カリフォルニウム-252中性子線源を使った中性子捕獲ガンマ線分析は実験室のみならず野外においても便利な方法である。この方法は装置が簡単で、中性子源として原子炉を必要としないことのほか、大容量の試料を比較的精度良く分析できるため、環境試料中の多元素分析に適している。
 

コメント    :
 中性子捕獲ガンマ線分析はB,Cd,Sm,Gd,などに感度が高く、機器放射化分析に対する補完的な分析法としての意義が大きい。また、中性子、即発ガンマ線とも透過力が大きいため、不均質系を含む大量試料の分析に適している。
 
 中性子源として原子炉を用いる場合、コリメータなどを用いて、炉心部からかなり離れた炉外へ良質の熱中性子ビームを取り出すことができるので、感度の高い元素で0.1ppm以下の分析が可能である。さらに、湾曲した案内管で導かれた冷中性子ビームを用いれば、より高い中性子速密度と低いバックグランドが得られるため、分析法の効率化、高感度化が可能である。
 
 一方、カリフォルニウム-252のようなRI中性子源を用いた場合は、原子炉のような強い中性子源を得ることができない代わりに、手軽に取扱いができる利点がある。この特徴を生かして、現場で大量試料中の主要成分の分析に適している。本研究はRI中性子源を用いた利点を生かして、環境中の有害元素の分析を試みて、多くの元素を検出しているが、定量的な考察がなされていないなど、まだ検討課題が残っており、今後の進展に期待したい。

原論文1 Data source 1:
The Uses of Neutron Capture γ-rays in Environmental Pollution Measurements
A.S. Abdel-Haleem*, M.A. Abdel-Samad*, R.A. Zaghloul** and A.M. Hassan***
*Hot Lab. Centre, Atomic Energy Authority, **Mubarak City for Scientific Research and Technology. Ministry of Scientific Research, ***Reactor and Neutron Physics Department, Nuclear Research Centre, AEA
Radiation Physics and Chemistry, 47, 719-722 (1996)

参考資料1 Reference 1:
即発γ線分析
富永 洋
日本原子力研究所
放射線応用技術ハンドブック、石榑顕吉、他編、pp.115-119 (1990)

キーワード:中性子捕獲ガンマ線分析、即発ガンマ線分析、カリホルニウム-252、環境汚染物質、ボアホール
neutron capture gamma-ray analysis, prompt gamma-ray analysis、californium-252、 environmental pollutant、bore-hole

分類コード:010507, 040404

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