作成: 1999/12/17 蛭川 寛
データ番号 :010168
熱収縮チューブの応用
目的 :高機能性熱収縮チューブ
放射線の種別 :電子
放射線源 :電子加速器
線量(率) :不明
利用施設名 :不明
照射条件 :不明
応用分野 :電気絶縁、防水
概要 :
フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレン及びテトラフルオロエチレンを共重合したコポリマーは、非晶性のフッ素ゴムとなる共重合組成の領域が存在する。このフッ素ゴムの組成域の周辺領域のコポリマーは、熱可塑性エラストマーとなる共重合組成域であり、結晶成分を持ち、また、柔軟性に優れ、しかも透明性にすぐれ、これを用いた熱収縮チューブが開発された。
詳細説明 :
新しいフッ素系熱可塑性エラストマーを応用して透明性、耐熱性、可トウ性等を併せ持つ熱収縮チューブが開発された。熱収縮チューブは、電子機器、自動車、航空機等の電線ハーネスの保護、ハーネスを構成する電線の端末、接続部、分岐部の絶縁、防水などの用途で幅広く使用されている。熱収縮チューブの耐熱性や耐油性といった物性だけではなく、電線の接続部や分岐部の絶縁や防水目的の場合は、チューブ被覆後に内部の接続状態を目視確認できるように透明性が求められるようになってきた。
ポリマーの透明性は一般に結晶量が少なく、結晶サイズが小さくなるほど向上する。例えばPVdF(ポリフッ化ビニリデン)などの結晶性フッ素系ポリマーは、透明性は優れているが柔軟性に乏しく、また、フッ素エラストマーなどの非晶性のフッ素系ポリマーは、柔軟性には富むものの、不透明であり、被覆後に内部の目視確認が出来ない。
また、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)は乳白色で、他のフッ素系ポリマーより大幅に透明性が劣り、ETFE(エチレンテトラフルオロエチレン)とPFA(パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)はPTFEより結晶性が低いために、透明性は優れているが、電子線照射による架橋が困難であるため、耐熱性が低下すると言う問題がある。
一方、図1の共重合組成図に示すように、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレン及びテトラフルオロエチレンを共重合したコポリマーは、非晶性のフッ素ゴムとなる共重合組成の領域が存在する。フッ素ゴム単体では結晶成分がないため、延伸した形状を固定できず、熱収縮チューブには応用できないが、図1のフッ素ゴムの組成域の周辺領域のコポリマーは、熱可塑性エラストマーとなる共重合組成域であり、結晶成分を持ち、また、柔軟性に優れ、しかも透明性にすぐれた熱収縮チューブ素材となる。

図1 共重合組成図(原論文1より引用)
ここで開発した透明熱収縮チューブ<スミチューブ>KH230は、MIL規格(MIL-DTL-23053)の200℃定格のフッ素系熱収縮チューブの規格をクリヤーし、その特性を表1に示した。
表1 <スミチューブ>KH230のMIL規格に準拠した特性(原論文1より引用)
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項目 試験条件 単位 規格値 測定値
(MIL-DTL-23053/13)
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引張り強さ - MPa 8.3(Min) 28.6
伸び - % 250(Min) 430
絶縁耐力 - kV/mm 7.9(Min) 35.2
体積抵抗率 - Ω・cm 1.0×109(Min) 1.1×1015
熱衝撃 300℃,4hr - 割れ,溶融なきこと 合格
低温柔軟性 -55℃,4hr - 割れなきこと 合格
熱老化後の
引張り強さ 250℃,168hr MPa 8.3(Min) 16.9
伸び 250℃,168hr % 200(Min) 490
吸水率 23℃,24hr % 0.5(Max) 0.01
銅鏡腐食性 175℃,16hr - 銅蒸着面の腐食なきこと 合格
透明安定性 200℃,24hr - 被着体の印字が読めること 合格
燃焼性 MILA法 sec 15(Max) 合格
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透明性に関しては、波長400〜800nmの可視光の平均透過率を、分光光度計で測定した結果を図2に示す。KH230は、初期及び熱老化後の何れの状態でも80%以上透過率を示し、PVdF系チューブに比べて優れた透明性を有している。柔軟性、熱老化特性、アウトガス性、耐油・耐薬品性とも従来のPVdF系チューブと比較しても優れており航空機、自動車等ハーネス用の熱収縮チューブとして十分な特性を有していた。

図2 光透過性(原論文1より引用)
一方、配電ケーブル(600V〜33KV)用の接続部防水材料として、防水テープが一般的に用いられてきたが、テープ巻き作業にスキルを要する等の問題点があった。これらテープ巻き方式の欠点をなくし、高信頼性を得るために防水性熱収縮チューブが用いられている。 この防水性熱収縮チューブは、一般的に電子線架橋ポリエチレンチューブの内面に特殊なホットメルト接着剤を塗布し、防水性や耐外傷性、高絶縁性を付与している。
コメント :
電線ケーブル関連の接続に関して、従来のテープ巻き方式と比較して作業性・信頼性等の点で熱収縮チューブが優れているためその応用範囲はかなり広がっている。熱収縮チューブの一つの問題点である、熱収縮作業時にガスバーナーやヒーター類を使用しなければいけない点があった。この問題を解決するため、火や熱を一切使用しないコールドシュリンカブルチューブの開発が進められている。
原論文1 Data source 1:
高耐熱・透明熱収縮チューブ
岸本 知佳、堀 清誠、東 修司、早崎 俊克
住友電気工業(株)
プラスチックエージMar.1999、pp156-159
原論文2 Data source 2:
熱収縮チューブ技術の配電ケーブル機材への適用
藤波 伸佳、春田 英雄
住友電気工業(株)
電設資材26,3 pp56-60
キーワード:熱収縮チューブ、電子線、架橋、フッ素系ポリマー、ポリエチレン、透明性、防水性、柔軟性
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分類コード:010101,010201