実験動物飼料の放射線滅菌の現状と展望

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作成： 2000/10/13 石垣　功データ番号　　　：010199 実験動物飼料の放射線滅菌の現状と展望目的　　　　　　：わが国における実験動物飼料の滅菌の現状と将来展望放射線の種別　　：ガンマ線,電子線量（率）　　　：10-30 kGy 照射条件　　　　：空気中、室温、応用分野　　　　：家畜飼料、養魚飼料、ペット飼料概要　　　　　　：　実験動物飼料の滅菌についての現状と将来展望。実験動物の定義、実験動物飼料の要件や特質等について解説した。また、実験動物飼料の滅菌方法として、高圧蒸気,EOG（エチレンオキサイドガス）,および放射線の各種栄養成分への影響の解明、或いは、滅菌飼料よる飼育試験結果などから、放射線滅菌飼料の問題点を明らかにするとともに将来展望を述べた。詳細説明　　　　：　 *：実験動物の定義　　実験動物の定義は「研究・検定・教育等用に作出または馴化され、維持・繁殖・供給される動物」と云われ、マウス、ラット、モルモット、ウサギ゛でその 99 % を占める。実験動物は何らかの微生物コントロールをされており、このため実験動物飼料の滅菌処理が必要になっている。実験動物が利用される分野は、医薬品、化粧品、農薬、食品添加物などの人への安全性を確かめるための毒性試験や、この他栄養学、医学など広い分野である。　 *：実験動物飼料の特質　　実験動物用の飼料として備えているべき要件として、①原料構成および含有割合が一定であること、②栄養成分が均質に含まれること、および③汚染物質や混雑物が可能な限り少ないことが挙げられている。　実験動物飼料は、副食なしに、長期間実験動物を健康に飼育できる飼料であることや実験に影響のありそうな色素や医薬品を添加しないことが求められている。また、有害物質の含有基準(表1)が厳しく規制されている。表1　飼料中の有害物質の基準（原論文1より引用） ----------------------------------------------------------------------------------- 実験動物用飼料家畜用飼料食糧物質 (単位) ------------------------------------------------------- EPA^* 日本実験動物　農林水産省　厚生省基準飼料協会(案) 　指導基準 (例：小麦) ----------------------------------------------------------------------------------- アフラトキシン (ppb) 5 10 20 ― エストロジェン活性　 (ppb) 1 ― ― ― カドミウム (ppm) 0.16 0.5 1 ― ヒ素 (ppm) 1 1 2 ― 鉛　　　　　　 (ppm) 1.5 1.5 3 ― 水銀 (ppm) 0.1 0.2 0.4 ― セレン (ppm) 0.1-0.6 ― ― ― PCB (ppm) 0.05 0.15 ― ― ニトロソアミン (ppb) lO ― ― ― BHC 　　 (ppm) 0.02 0.05 0.05 ― へプタクロール (ppm) 0.02 0.02 0.02 ― DDT (ppm) 0.1 0.15 0.5 ― アルドリン (ppm) ― 0.02 0.02 ― デルドリン　 (ppm) 0.02 0.02 0.02 ― エンドリン (ppm) ― ― 0.01 ― マラチオン (ppm) 2.5 2.5 5 8 パラチオン (ppm) ― 0.5 0.5 ― フェニトロチオン (ppm) ― ― 5 10 ダイアジノン (ppm) ― ― 5 ― ピリミホスメチル (ppm) ― ― 4 ― ピペロニルブトキシド　(ppm) ― ― 8 ― EDB (ppm) ― ― 0.1 ― ----------------------------------------------------------------------------------- ^* EPA:米国環境庁　 *：実験動物飼料の滅菌方法　　実験動物飼料の滅菌方法としては、高圧蒸気滅菌(オ-トクレ-ブ滅菌)、酸化エチレンガス(EOG)滅菌、および放射線(γ線、電子線)滅菌が知られている。しかし、EOG滅菌法では、EOGが飼料中の脂質に溶け込んで残留するので、今では殆ど用いられていない。現在は、オートクレーブ滅菌法が主流であるが、飼料の硬化、嗜好性の減少、ビタミンB₁の激減等の未解決の問題点もある。よりよい滅菌法としてγ線滅菌法があるが、最近では、電子線滅菌法も台頭しつつある。　 *：滅菌が飼料成分に及ぼす影響　　マウス・ラット用飼料のオートクレーブ滅菌では、硬化および褐変化が起こると云われているが、ウサギ・モルモット飼料のように、牧草の配合量が多く水分を吸って柔軟化するものもある。飼料の成分に及ぼす影響では、オートクレーブ法では、特にビタミンB₁ およびビタミンC の破壊が著しく 60-80 % にも達する。一方、放射線滅菌では、ビタミンEの減少がオートクレーブ滅菌よりも大きいが、ビタミンC は全く安定で、その他の栄養素の損失も比較的少なく、実験動物にとってより好ましい殺菌あるいは滅菌法である。図1　滅菌法の違いとビタミン残存率（□ ：オートクレーブ滅菌(121 ℃、20 分) ■：放射線滅菌( 35 kGy ) 横軸はオリエンタル酵母工業㈱製飼料の製品名とその他の飼料メーカーの製品）（原論文1より引用） *：放射線滅菌飼料とオートクレーブ滅菌飼料による飼育試験結果　　各種滅菌飼料によるラットの飼育試験では、体重の増加に若干の差が認められたが、血液性状、血清性状に有意差はなく、これらは摂餌量の差が成長に影響を与えたものと推察される。なお、臓器重量、肝臓の一般成分、血液性状および血清性状にも、滅菌方法の違いによる差は認められていない。図2　滅菌処理MF飼料によるラットの飼育試験結果（動　　物：Crj : CD(SD) 雄，飼　　料：オートクレーブ処理(121 ℃、20 分)，放射線照射処理( 30 kGy )，飼育条件：室温 23 ± 2 ℃、湿度 40 - 70 % ，12 時間明・12 時間暗　　　個別飼育）（原論文1より引用） *：放射線滅菌飼料の問題点と将来展望　　実験動物飼料の生産量は横這い状態と見られている。放射線滅菌法は、これまでの研究結果から非常に優れた滅菌方法であることが明らかにされており、また、放射線滅菌飼料の占める割合が年々増加傾向ながらも、その比率は低く1991年でわずか7 % 程度である。　放射線滅菌飼料が伸び悩んでる最大の理由は、標準品(未滅菌品)に比べて2.3倍の高価格にあり、この原因は照射料金が高いことと包装費(労力と資材)が掛かることとされている。　放射線滅菌飼料を将来的に普及させるには、コストダウンが最優先されなければならない。照射料金の低減には、SPF動物用飼料の滅菌線量の研究および加速器を用いた電子線滅菌の研究を進める必要がある。　コメント　　　　：　わが国における実験動物飼料の生産量は、1980年のMAX(18,378 ton/y)から年々減少し、最近では、10,000 ton/yで横這い状態である。このうち、放射線で滅菌された量は、1,600 ～ 1,700 ton/y(1997年)である。これらには、滅菌線量として30 ～ 50 kGyが照射されているが、滅菌動物飼料のうち、完全無菌を要する無菌動物向けの飼料は全体の10%以下である。したがって、SPF動物用飼料の照射線量を10 ～ 20 kGyに低減し、さらには、加速器による電子線の利用により、照射料金の引下げが必要である。一方、放射線滅菌が伸び悩んでいる大きい理由の一つには、斯かる実験動物飼育施設では、オ-トクレ-ブは、必需設備であり、簡便に使用できることから、動物飼料のユーザーが自家施設で滅菌し、これを利用していることにもよると考えられる。( オ-トクレ-ブ滅菌費用：30 ～ 60 円/kg---照射との差；120 ～ 150 円/kg) 原論文１ Data source 1：放射線滅菌の現状と展望　　4.実験動物飼料虎谷博一大阪府大 Radioisotopes, 47(1), 85-94(1998) キーワード：飼料、実験動物、殺菌、放射線滅菌、照射、ビタミン experiment animals, pasteurization, radiation sterilization, irradiation, feedstuff or diet vitamine; 分類コード：　010403、020405、020502、030601
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