EB照射による高機能フィルムの直接製膜技術

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作成： 2005/10/27 桝田義勝データ番号　　　：010282 EB照射による高機能フィルムの直接製膜技術目的　　　　　　：新製法による高機能性フィルムの開発とその応用放射線の種別　　：電子、電子線放射線源　　　　：3keV 線量（率）　　　：30-100kGy 利用施設名　　　：自社電子線照射設備照射条件　　　　：窒素気流中応用分野　　　　：光学機能材料、装飾材、塗装・コーティング、フィルム・シート、複合材料概要　　　　　　：　EB（電子ビーム、電子線）照射により、UV（紫外線）、EB硬化型のモノマー、オリゴマーからダイレクトにフィルムを製膜する技術を開発した。本技術で製膜したフィルムは屈折率、光線透過率、曇価を一定に保ちながら、引張強さ、伸び、硬度等の機械的性質を大きく変化させられる特長があり、既存のPMMA（ポリメチルメタクリレート）やPC（ポリカーボネート）フィルムと比べて耐熱性、耐湿性、耐溶剤性も優れており、耐候性についても屋外で10年間の使用実績のあるPVC（ポリ塩化ビニル）フィルムと遜色がない。さらに、本技術で製膜したフィルムは冷間加工、真空成型法によって二次元、三次元の形状に二次加工できる特長もある。耐候性が必要な建材などの用途で実用化が進められており、さらなる用途拡大が期待される。詳細説明　　　　：　プラスチックフィルムの製造方法にはインフレーション法、Tダイ押出法、キャスティング法などがあり、成形されたフィルムは用途に応じて表面処理、コーティング、ラミネートなどのコンバーティング処理（後処理）が施され機能性が高められる。　　しかし、より高度な機能性が要求される場合には、コンバーティング処理では対応できず、フィルムを構成するポリマー自体の性能向上が必要となるが、高機能ポリマーを多品種、小ロットで生産するのはコストの点から現実的でない。そこで、シーアイ化成㈱ではEB照射技術を応用し、ウレタンアクリレート系のモノマーやオリゴマーからダイレクトにフィルムを製膜する新技術を開発した。その生産性や得られたフィルムの機能性例を示す。　　高機能性フィルムの多くは、圧延成型、押出成型などの既存フィルム製法で得られるが、電子線照射技術製法フィルム（以下EBフィルムという）は既存製法に比べ、省エネルギーで幅広い原料組成に対応でき、また厚みや幅といった寸法対応性も広くフィルム化速度という点からも高い生産性がある。既存製法との比較を表1に示した。表1　既存フィルム製法と電子線照射技術製法フィルムの特性比較　消費エネルギー寸法対応性寸法対応性機能適法性 BEフィルム小中広広圧　　　　延大大広中押　　　　出無延伸中中狭中押　　　　出延伸中～大中～大中中流　　　　延大大中中　　表2はウレタンアクリレートを原料とする柔軟性の異なるEBフィルム３種（Ｓ，Ｆ，Ｈ）と既存の100ミクロン厚のアクリル（PMMA）とポリカーボネート(PC)フィルムの特性を比較したものである。EBフィルムはモノマー、オリゴマーの選択、配合設計の自由度が高いため、屈折率、光線透過率、曇価を一定に保ちながら、引張強さ、伸び、硬度等の機械的特性を大きく変えることができる。既存のPMMA、PCフィルムでは機械的特性を大きく変えることは困難である。表2　ウレタンアクリレートを原料とする柔軟性の異なるEBフィルム３種（Ｓ，Ｆ，Ｈ）と既存の100ミクロン厚のアクリル（PMMA）とポリカーボネート(PC)フィルムの特性比較　 S F H PMMA PC 比　重 1.2 1.2 1.2 1.1 1.2 屈折率 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 複屈折率 0.3 0.3 0.3 1.0 0.3 光線透過率 93 93 93 93 90 曇　　　価％ <0.8 <0.8 <0.8 0.8 1.1 引張強度Mpa 35 45 54 40 80 伸び　％ 200 50 5< 140 140 鉛筆硬度 2B HB 4H 3B 2B 加熱伸縮率％ <1.5 <1.5 <1.5 >10 <0.1 当社測定値による比較　　　　　　　　　　同じく、耐薬品性、耐溶剤性、耐汚染性を比較したものが表3であり、柔軟性が大幅に異なるのにもかかわらず、3つのEBフィルム間には大差はなく、いずれもPMMAやPCより優れている。表3　　 S F H PMMA PC 耐薬品性 10％NaOH ○ ○ ○ ○ × 10％HCL ○ ○ ○ ○ ○ ガソリン ○ ○ ○ ○ △ 中性洗剤 ○ ○ ○ ○ ○ 可塑剤 ○ ○ ○ × × サラダ油 ○ ○ ○ ○ △ 耐溶剤性 MEK △ ○ ○ × × トルエン ○ ○ ○ × × アセトン ○ ○ ○ × × IPA ○ ○ ○ △ ○ 　　フィルムの機能は物理的・化学的物性にあるが、厳しい環境下で長期に亘り持続する耐久性が価値基準となる。そこで、物理強度上の耐久性確認として、EBフィルムを高温・高湿度下（85℃×85％RH）で90日間促進劣化させ、引張強度と伸びの残存率を調べた。その結果、表4に示した通り残存率はそれぞれ90％であり、比較対照した高耐久性フィルムの2-フッ化ビニリデン（PVDF）同等であった。表4　　 BEフィルム PVDF 引張強度残率　　(％) 90 97 伸び残量　　　　　(％) 90 98 　　外観上の耐久性については、屋外促進曝露試験としてISO877に基づくEMMAQUA-NTWを選び、紫外線露光エネルギーで1400ML/㎡まで曝露した。これはフロリダでの南面曝露の5年に相当するものである。その結果を図1に示す。図1　　　　図1通り、光沢は殆ど変わらず初期値の86.3と同等であり、色調測定の指標となるL*,a*,b*各値の変化も僅かである。これらから算出した色差はΔE=1.3という微小な変化にとどまった。これは、外観上も高耐久性で知られるフッ素系フィルムと同等の結果である。　　EBフィルムの2つ目の特長は二次元、三次元の形状に二次加工できることである。表5はEBフィルムとPVC、PETGフィルムの加工性を比較したものであるが、EBフィルムは冷間プレス、真空成形で二次加工でき、表面光沢の低下や白化が起こりにくい。表5　　加工条件外観観察 S F PVC 2次元低温光沢変化 ○ ○ △ 高温 ○ ○ △～× 低温クレイズ ○ ○ × 高温 ○ ○ ○ 3次元低温光沢変化 ○ ○ △ 高温 ○ ○ △～× 低温クレイズ ○ ○ × 高温 ○ ○ ○ 　一方、汎用されている塩ビフィルム（PVC）は変化が大きい。これは従来製法に対し、新製法フィルムが“フィブリルやミクロボイド”を発生しにくいためであると考えられる。　　EBフィルムは架橋構造を有することが、応力発生時のフィブリルやミクロボイドの発生を抑制している原因と考えられ、既存のフィルムでは得難い特質である。また、従来、塗装は下塗り、中塗り、上塗りの工程が必要な上に、仕上がり面に塗りムラが生じたり、作業中は溶剤の臭気問題があったが、EBフィルムはこのような問題がなく、また、容易に二次加工できる特長を活かし、従来の「塗る」塗装から「貼る」塗装技術としての展開が期待され、まずは耐候性が必要な建材などの用途での実用化が進められている。　　以上のように省エネルギーの当製法が広い分野への高機能フィルム供給手段の高い可能性を示している。コメント　　　　：　　フィルムの製造はポリマーを合成し、そのポリマーをフィルムに成形する2段階の工程を経て製造されるのが一般的であるが、EB照射によりダイレクトにフィルムを製膜できれば、用途に見合う多品種少量のフィルムを低コストで製造できるというメリットがあり、フィルム製造の概念を変える画期的な技術になり得る。また、このEBフィルムは二次元、三次元の形状に二次加工できる特長もあり、何度でも塗り替えが可能な貼る塗装フィルムという新しい概念を提供している。原論文１ Data source 1： Manufacturing of a high performance film by the EB curing technology Y. Masuda Research and Development Center, C. I. Kasei Co., Ltd RADTECH ASIA 2005, Proceedings, p.323-330 原論文２ Data source 2：屋外耐候性20年も視野に入れるEB硬化型フィルム「ベルビュート」機能性を選択できるオーダーメイドの実現シーアイ化成㈱ C. I. Kasei Co., Ltd コンバーテック　p.6-8, No.7 (2005) キーワード：放射線照射、電子線照射、EBキュアリング、高機能フィルム、新フィルム製法、塗装代替、耐候性フィルム、フッ素代替、 radiation irradiation,electronbeam irradiation,EB curing,high -performance film,new film production method,paintless film,high weatherability film,fluorine alternative 分類コード：010101,010107,010205,010206
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		消費エネルギー	寸法対応性	寸法対応性	機能適法性
BEフィルム		小	中	広	広
圧　　　　延		大	大	広	中
押　　　　出	無延伸	中	中	狭	中
押　　　　出	延伸	中～大	中～大	中	中
流　　　　延		大	大	中	中

	S	F	H	PMMA	PC
比　重	1.2	1.2	1.2	1.1	1.2
屈折率	1.5	1.5	1.5	1.5	1.5
複屈折率	0.3	0.3	0.3	1.0	0.3
光線透過率	93	93	93	93	90
曇　　　価％	<0.8	<0.8	<0.8	0.8	1.1
引張強度Mpa	35	45	54	40	80
伸び　％	200	50	5<	140	140
鉛筆硬度	2B	HB	4H	3B	2B
加熱伸縮率％	<1.5	<1.5	<1.5	>10	<0.1

		S	F	H	PMMA	PC
耐薬品性	10％NaOH	○	○	○	○	×
	10％HCL	○	○	○	○	○
	ガソリン	○	○	○	○	△
	中性洗剤	○	○	○	○	○
	可塑剤	○	○	○	×	×
	サラダ油	○	○	○	○	△
耐溶剤性	MEK	△	○	○	×	×
	トルエン	○	○	○	×	×
	アセトン	○	○	○	×	×
	IPA	○	○	○	△	○

	BEフィルム	PVDF
引張強度残率　　(％)	90	97
伸び残量　　　　　(％)	90	98

加工	条件	外観観察	S	F	PVC
2次元	低温	光沢変化	○	○	△
	高温	光沢変化	○	○	△～×
	低温	クレイズ	○	○	×
	高温	クレイズ	○	○	○
3次元	低温	光沢変化	○	○	△
	高温	光沢変化	○	○	△～×
	低温	クレイズ	○	○	×
	高温	クレイズ	○	○	○