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作成: 1998/01/26 山本 和高

データ番号   :030034
全身骨シンチグラフィ-乳癌、肺癌、前立腺癌等の骨転移病巣の検出
目的      :骨シンチグラフィによる転移性骨腫瘍の全身的な検索
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :Tc-99m
応用分野    :核医学、画像診断

概要      :
 肺がん、乳がん、前立腺がんといった悪性腫瘍は骨への転移を起こしやすい。放射性同位元素で標識したリン酸化合物を用いる骨シンチグラムは、単純骨X線写真で異常陰影として検出できる以前に、骨転移病巣周囲の骨組織の反応性変化により陽性像として描出される。全身的な検索を非侵襲的に行うことができ、骨病変の検出感度も高いので、骨転移の疑われる症例に対するスクリーニング検査として広く用いられている。

詳細説明    :
 骨は常にCa、Pを取り込んで骨新生を行っている。とくに病巣部では多少とも骨の破壊が進んでおり、これを補うために正常な場合より骨新生が促進されている。この病巣部での骨ミネラル量の増加・減少の程度が20〜50%にならないと、一般X線検査においては見出すことが出来ない。放射性同位元素で標識したリン化合物を用いると、これらが異常に早く病巣部に取り込まれ、X線写真で異常と検出できる以前に骨病変部を検出することができる。
 
1.検査対象
 悪性腫瘍があり、骨転移が疑われる症例の場合に骨シンチグラフィを撮る。特に乳癌、前立腺癌、肺癌といった骨転移を起こしやすい症例においては、病期の決定ならびに治療後の経過観察に有用な検査である。

2.方法、集積機序
 99mTc MDP(methylene diphosphonate) または99mTc HMDP(hydroxymethylene diphosphonate) 555 〜740 MBqを静注する。悪性腫瘍が骨に転移すると、周囲の骨芽細胞活性の反応性が上昇して骨新生がおこり、局所の血流も増加するので、99mTc標識リン酸化合物の集積が増強すると考えられている。投与2〜3時間以内に投与量の約50%は尿中へ排泄されるので、水分を十分に摂取し頻回に排尿した方が被曝線量は低下する。特に撮像直前には必ず排尿しないと尿中の高い放射能濃度のために骨盤部の診断が困難になる。投与3〜4時間後より、全身のシンチグラムを撮像する。2検出器型ガンマカメラでは前面像と背面像を同時に撮像でき、検査時間を短縮できる。病変の疑われる部位等は局所像も追加する。被曝線量は全身に対して0.2mGy/37MBqである。

3.骨シンチグラフィ所見
 図1は、乳がん症例の全身骨シンチグラム(前面像、後面像)で、多数の異常集積が描出され、全身的な骨転移がうかがわれる。代表的な部位については、矢印で示した。


図1 乳癌症例の全身骨シンチグラム

 このように、転移性骨腫瘍は、多発性集積増加を示すことが多い。広範に骨転移が進展すると、骨全体の集積が増強する"super scan"、"beautiful bone scan"と呼ばれる状態を示し、局所的な異常集積が認められなくなるため、一見正常と誤診する危険性もある。図2に前立腺癌の症例について、beautiful bone scanの例を示す。


図2 広範な骨転移を示すbeautiful bone scan(前立腺癌の症例)

 図2において、相対的に腎尿路系の描出が認められない(absent kidney sign)ことに着目すれば、正常との鑑別は容易である。
 腎がん、甲状腺がんなどの骨転移は欠損像を示すことが少なくないので注意を要する。また、骨折、関節炎などの良性疾患でも集積増加を示すので、これらの病変との鑑別は重要である。特に、単発性異常集積の場合は骨シンチグラフィのみでは診断が困難なことが多く、局所の骨X線写真、CT、MRI等の検索が必要となる。また、手術や放射線治療も局所の骨の放射能集積に変化を来たすので、これらの既往に十分注意を払う必要がある。

コメント    :
 99mTc標識リン酸化合物を用いる骨シンチグラフィは繰り返して簡単に全身的な骨病変の検索を行うことができ、骨病変の検出感度が高いので転移性骨腫瘍のスクリーニングに有効である。
 骨シンチグラフィでは、転移した腫瘤に対する周囲の骨組織の反応的な変化を評価しているため、周囲への影響があまりない小さな骨転移の検出は困難であり、また、同様に集積異常を示す良性病変との鑑別は容易ではない。悪性腫瘤自体に選択的に取り込まれ、病巣を短時間内に、明瞭に陽性描画できる放射性医薬品が開発されれば、それを用いる全身イメージンングが、全身骨シンチグラフィにとって変わるようになると考えられる。 

参考資料1 Reference 1:
骨・腫瘍・炎症シンチグラフィ
西村 恒彦、木村 和文
大阪大学医学部
診療放射線技術 下巻(改訂第9版) 監修:立入 弘、稲邑 清也、編集:山下 一也、速水 昭宗、P.249-252, 南江堂,1996

キーワード:骨シンチグラフィ,bone scintigraphy,骨転移,bone metastasis,転移性骨腫瘍,metastatic bone tumor,肺がん,lung cancer,乳がん,breast cancer,前立腺がん,prostate cancer,Tc-99m MDP,Tc-99m MDP
分類コード:030301,030199

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