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作成: 1999/02/26 澁谷 仁志
データ番号 :030060
顎骨に発生する嚢胞
目的 :顎骨に発生する嚢胞の紹介
放射線の種別 :エックス線
放射線源 :X線管
応用分野 :医学、歯学
概要 :
嚢胞とは原則的に内面を上皮細胞で囲まれた嚢状の構造物をいう。通常、無痛性の発育を示すため、大きくなるまで気が付かないことも少なくない。他の歯科治療のため来院した際に偶然見つかることもある。顎骨に発生する嚢胞の場合、X線所見が良性腫瘍と類似しているところがあり、診断にあたっては注意が必要である。
詳細説明 :
嚢胞とは原則的に内面を上皮細胞で囲まれた嚢状の構造物の中に液体やガスを含むものをいう。大きさは大小様々である。一般に、内圧によって膨張性の発育を示す。また、上皮による裏層を伴わないものも嚢胞といわれているが、これらは偽嚢胞として分類されている。
1.顎骨に発生する嚢胞の一般的なX線所見
1)X線透過性
通常、嚢胞はX線透過像を示す。しかし、上顎洞に進展する歯根嚢胞等は周囲に比較して相対的に不透過像となる。
2)形態・辺縁
通常、嚢胞は円形または類円形を示す。嚢胞の発育に伴い、顎骨の近遠心方向(前方後方方向)に増大するようになる。また、周囲構造物によって形態の変化が見られることがしばしばある。辺縁は境界明瞭で一層の骨硬化帯を呈することがある。しかし、嚢胞の急速な拡大の際には認められないこともある。
3)周囲構造物
嚢胞の発育に伴い、周囲構造物の形態、位置に変化が現れる。周囲の歯は、嚢胞の圧迫によって近遠心的に傾斜する。また稀ではあるが、歯根が吸収されることもある。顎骨では、皮質骨が内部より吸収され、菲薄化する。また、やがて骨膨隆として認められるようになる。下顎臼歯部においては、下歯槽管が嚢胞の辺縁に沿って下方に圧迫されることがある。上顎大臼歯部においては、頬骨下稜の消失が認められることもある。
2.嚢胞の分類
嚢胞の分類に関しては、顔裂性嚢胞の存在の有無や、歯原性石灰化嚢胞を嚢胞に入れるか腫瘍に入れるかなどの問題点がある。分類法には種々あるが、ここでは歯原性と非歯原性、偽嚢胞に分け、細分化をあまりせずにそれぞれの疾患の特徴的なX線所見を簡単に述べる。
(1)歯原性嚢胞
1-1)歯根嚢胞
歯根嚢胞は歯槽硬線と連続したX線透過像を示し、歯は失活歯である。残瘤嚢胞の場合、抜歯窩の部分に通常の嚢胞性透過像として認められる。図1に歯根嚢胞のX線像を示す。

図1 歯根嚢胞のX線像
これは、咬合法上顎二等分法で得た写真である。右側側切歯に歯冠修復がなされ、その根尖に類円形の透過像が認められる。
1-2)含歯性嚢胞(濾胞性歯嚢胞)
嚢胞性X線透過像に埋伏歯の歯冠部を含んでいる。埋伏歯の発現部位に多く発生する嚢胞である。頬側への膨隆が認められることもしばしばある。図2は含歯性嚢胞(濾胞性歯嚢胞)のX線像である。

図2 含歯性嚢胞(濾胞性歯嚢胞)のX線像
これは、回転パノラマX線撮影法で得た写真の右側部分のみを示したものである。下顎右側小臼歯部に透過像が認められる。透過像内には歯冠が含まれている。前後の歯根が圧迫変位を受けている。
1-3)歯原性角化嚢胞
嚢胞の基本的X線所見に準じていることが多いが、著明な皮質骨の膨隆が認められることがある
(2)非歯原性嚢胞
2-1)鼻口蓋管 (切歯管) 嚢胞
上顎口蓋部に発生する嚢胞で、前鼻棘に重複するとハート型に見えることがある。前歯部の歯根の変位または吸収が認められることがある。
2-2)術後性上顎嚢胞
上顎洞炎の手術の後、15年〜20年を経て発生する。通常、上顎洞は骨に置換されているが、同嚢胞が生じると嚢胞性透過像が上顎洞部に認められる。その周囲に一層の骨硬化像が認められる。
(3)偽嚢胞
3-1)単純性骨嚢胞
骨硬化縁は他の嚢胞よりも明瞭ではない。通常、歯根の吸収や偏位はみられない。歯根の間に透過像が入り込んだような像を呈することがある。
3-2)脈瘤性骨嚢胞
単房性あるいは多房性のX線透過像を示す。隣接歯の吸収が認められることがある。
3-3)静止性骨空洞
通常、下顎角部の下歯槽管の下方に発生する。X線透過像の周囲の骨硬化像は通常よりはっきりとみえることが多い。図3に静止性骨空洞のX線像を示す。

図3 静止性骨空洞のX線像
これは、回転パノラマX線撮影法で得た写真であり、右側下顎角部付近に強い骨硬化帯を伴ったX線透過像が下歯槽管の下方に認められる。
コメント :
顎骨に発生した嚢胞の治療方法としては、歯原性嚢胞に対しては原因歯の抜去と嚢胞の摘出、非歯原性嚢胞に対しては嚢胞の摘出が基本となる。嚢胞壁の一部を切除して内容液を口腔へ排除するための交通路をつくり、膨張圧を弱めて嚢胞の縮小を計る開窓療法が行われることもある。また、偽嚢胞の単純性骨嚢胞では骨壁の掻爬が、脈瘤性骨嚢胞では顎骨切除が行われる。静止性骨空洞では特別な処置を必要としない。
参考資料1 Reference 1:
キーワード:画像診断,image diagnosis,嚢胞,cyst,歯原性嚢胞 ,odontogenic cyst,非歯原性嚢胞,non-odontogenic cyst,偽嚢胞,pseudocyst
分類コード:030103、030401
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