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作成: 2000/03/03 山本和高
データ番号 :030136
腹部の超音波検査
目的 :腹部超音波検査の有用性の紹介
概要 :
超音波検査は放射線被曝が無く、簡便で、体表に探触子をあてるだけでリアルタイムに体内の断層像を得ることができる。胆石の検出、脂肪肝の診断、肝内腫瘤性病変のスクリーニングなど腹部の病変の画像診断に広く利用されている。虫垂炎などの急性腹症の原因診断にも有用である。Tissue harmonic imagingによりアーチファクトの少ない良好な超音波像を得ることができるようになった。
詳細説明 :
腹部の超音波検査は、胆嚢や肝臓のスクリーニングが中心となるが、膵、脾、腎、膀胱、腸管等腹部全体を観察することができる。
胆石症(図1a)、急性胆嚢炎の診断には超音波検査が最適である。超音波検査による胆石の診断率は97%程度と非常に高く、胆石の組成や構造も評価できる。胆嚢壁の厚さが3mm以上であれば、胆嚢壁肥厚と診断する。壁肥厚の成因には、急性胆嚢炎、慢性胆嚢炎、胆嚢癌、アデノミオマトーシス(胆嚢腺筋腫症)、腹水貯留、急性肝炎、食後などがある。胆嚢癌は腫瘤形成型と壁浸潤型に区別される。限局性で不整な壁肥厚は胆嚢癌を疑う。全周性の平滑な壁肥厚は慢性胆嚢炎と診断できるが、癌との鑑別が困難な場合もあり、例えば、黄色肉芽腫性胆嚢炎は不均一な壁肥厚を示す。肥厚した壁内にRokitanski-Aschoff sinusの増殖を示す小さな嚢胞像、コメット様エコーが認められればアデノミオマトーシスと診断される(図1b)。隆起性病変は、直径15mm以上、壁との付着部が広いと先ず癌を考える。10mm以下の桑実状で高エコーの病変はコレステロールポリープの可能性が高い(図1c)。ただし,完全には癌を否定しきれないので経過観察を行い、増大傾向が認めれば切除の適応となる。黄疸の鑑別診断にも超音波検査は有効で、肝内胆管の拡張があれば閉塞性黄疸と診断可能であり、胆管閉塞の部位や、胆管結石や胆管癌といった、閉塞原因も評価できる。

図1 胆嚢病変 (a) 胆石症。4個の胆石が描出されている。 (b) アデノミオマトーシス(胆嚢腺筋症)。壁内のRokitanski-Aschoff sinus(矢印)が明瞭に認められる。 (c) コレステロールポリープ(矢印)。いずれもtissue harmonic imagingの超音波像である。
(原論文1より引用)
肝臓では腫瘤性病変の検出に優れ、スクリーニングとして広く用いられている。肝嚢胞は、内部は無エコーで辺縁は平滑、後方エコーの増強が特徴である。典型的な肝細胞癌の超音波像は、辺縁低エコー(ring sign)で、内部はモザイクパターンやnodule in noduleなどと表現される混合エコーを示す。このような特徴的な病変は、超音波検査のみでも診断可能である。カラードプラ法を用いたり、最近では超音波造影剤を投与したりして、腫瘤性病変等の血流評価、性状診断がより正確に行われるようになってきている(図2)。

図2 肝細胞癌 (a) C型肝硬変に合併した肝右葉上部の10mmの肝細胞癌(矢印)。(原論文1より引用) (b) 肝細胞癌。カラードプラ3次元表示像。肝細胞癌に特徴的なバスケットパターンが明瞭に示されている。流入動脈(矢印)と流出静脈(矢頭)も立体的に同定できる。
(原論文2より引用)
スクリーニング検査では病変を適確に検出することが重要であるが、超音波は肺、腸管内の空気や骨に妨害されるので、肝全体を見落とし無く観察するのは容易ではない。CTなど他の画像検査法と異なり、術者が検査中に気付いていないと、記録された画像のみからは診断できない。診断結果が術者の技量、熱意等に大きく依存する部分のあるのが超音波検査の問題点である。
び慢性肝疾患では、慢性肝炎は特徴的な所見に乏しい。正常肝実質のエコーレベルは腎または脾のエコーレベルとほぼ同じであるが、脂肪肝は肝実質のエコーレベルが上昇し、深部での減衰が強くなりbright liverと呼ばれる所見を示す。肝硬変では、肝表面の凹凸不整、肝実質エコーパターンの粗造化、脾腫、腹水、側副血行路等の所見が参考となる。
膵臓は消化管内の空気に妨害されるので、薄いお茶を飲用させて胃〜十二指腸を水で満たすといった工夫が必要となることもある。切除可能な小膵癌は、黄疸を示す症例以外は、無症状であり、超音波によるスクリーニングが発見のきっかけとなることが少なくない。慢性膵炎では主膵管の不整な拡張、石灰化による点状高エコーなどがみられる。
脾臓、腎臓、膀胱、卵巣や子宮なども腹部の一連の超音波検査で観察することができる。
また、イレウス、腸重積、急性虫垂炎といった消化管の病変の診断にも有用で、急性腹症の疑われる患者に対しては必須の画像検査法である。
最近の超音波画像は、ティシュハーモニックイメージイング(tissue harmonic imaging)により、アーチファクトが除去され、画質が改善しており、病変の検出が一層容易になっている。
コメント :
超音波検査は簡便で安全な検査であり、繰り返して実施することも可能で、スクリーニング検査に適している。触診の延長程度の気軽さで実施できる画像診断法といえる。ただし、検査中に診断しなければならないので、超音波画像の特徴に習熟し、病変を見落とさないように注意することが重要である。検査の負担、費用を考慮すれば、超音波検査のみで確定診断ができるのが望ましい。そのようなものが少しでも増えるように、努力されることが期待される。
原論文1 Data source 1:
Tissue harmonic Imaging(THI)の臨床応用
飯島尋子、横山祐治、波田寿一
兵庫医科大学内科学第三教室
画像診断 Vol. 19 No. 11: 1250-1257, 1999
原論文2 Data source 2:
3D表示画像の臨床応用
平井都始子、大石 元、徳野恵津子、山田麗子、高橋弥穂、広橋伸治、吉川公彦、吉岡哲也、打田日出夫
奈良県立医科大学腫瘍放射線科、放射線科
画像診断 Vol. 19 No. 11: 1294-1303, 1999
キーワード:超音波断層像(ultrasonography)、胆嚢(gall bladder)、胆嚢炎(cholecystitis)、肝臓(liver)、肝腫瘍(liver tumor)、脂肪肝(fatty liver)、膵臓(pancreas)、急性腹症(acute abdomen)
分類コード:030107
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