血栓診断用イメージング剤：Tc-99m-Apcitide

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作成： 2000/11/10 白神　宜史データ番号　　　：030208 血栓診断用イメージング剤：Tc-99m-Apcitide 目的　　　　　　：急性深部静脈内血栓の画像診断剤の説明放射線の種別　　：ガンマ線応用分野　　　　：医学、診断概要　　　　　　：　⁹⁹^mTc標識アプシタイド(Apcitide)は、深部静脈内血栓(DVT)の画像診断用に開発された放射性医薬品で、現在、欧米にて臨床に供されている。Apcitideは26個のアミノ酸からなる環状の二量体ペプチドである。Apcitideが有するアミノ酸のRGD配列(Arg-Gly-Asp)は、血小板上に発現されるGPⅡb/Ⅲaと呼ばれるフィブリノーゲン-レセプターに特異的に結合する。この性質を利用して、DVT症例における病巣を画像化する。詳細説明　　　　：　 1. はじめに　深部静脈内血栓(DVT)は、静脈に血の塊が詰まる病気で特に大腿部あるいは膝から下の下肢に発生する。米国におけるDVTの発症数は年間200万から500万症例とも言われる。急性DVTは、生命を脅かす肺塞栓(PE)の原因となるので、DVTが新しくできたものかあるいは古いものかを診断することは重要である。本邦では統計上の患者数は米国に比べてはるかに少ないものの、確実に増加傾向を示し、潜在的な患者数も含めるとかなり多いのではないかと推定される。　 2. 化合物の性質とメカニズム　⁹⁹^mTc標識アプシタイド(⁹⁹^mTc-Apcitide)は26個のアミノ酸からなる環状の二量体ペプチドで、⁹⁹^mTcはN3S型のキレート様ペプチド配列を介して標識される(図1)。図1　⁹⁹^mTc-Apcitide(P280)の化学構造（原論文1より引用。　Reproduced from The Quarterly Journal of Nuclear Medicine 1996; 40:221-233, Figure 12(p.228), J.Lister-James, B.R.Moyer and T.Dean, Small peptides radiolabed with ⁹⁹^mTc, Copyright(1996), with permission from Edizioni Minerva Medica. ）　また、このペプチド(Apcitide)はアミノ酸のRGD配列(Arg-Gly-Asp)を二個有する。このRGD配列は、血漿タンパクであるフィブリノーゲンにも含まれており、血小板上のGPⅡb/Ⅲaと呼ばれるフィブリノーゲン-レセプターに結合する。⁹⁹^mTc-ApcitideがフィブリノーゲンのGPⅡb/Ⅲaに対する結合を阻害する能力IC50は6.8nMであった。通常、血中を循環している血小板にはGPⅡb/Ⅲaレセプターがほとんど発現していない。ところが、血栓を発症すると血小板上のレセプターの数は80,000以上(血小板1個あたり)にも達し、フィブリノーゲンとともに血栓部位に凝集する。そこでRIで標識したRGD様ペプチドを用いれば、新鮮な活動性の血栓がイメージングできると考えられた。L.C. Knightらは種々のペプチドを合成し、CYT-379と呼ばれる¹¹¹In標識ペプチドで臨床試験を実施したが満足すべき成績には至らなかった。⁹⁹^mTc-Apcitideは世界で初めて承認されたペプチド製の血栓診断薬で、欧米で商品化されている。　 3. 医薬品の調製　⁹⁹^mTc-Apcitideは、凍結乾燥キットとして欧米で市販されている。キットは100mgのペプチドのほか塩化第一スズ、グルコヘプトネートからなり、過テクネチウム酸ナトリウム(⁹⁹^mTcO4^-)注射液(740MBq))を加えて沸騰水浴中で15分間加熱して調製される。　 4. 臨床成績　欧米において計280症例の第3相臨床試験が実施された。患者は、発症から10日以内の急性DVT症例で、⁹⁹^mTc-Apcitideによるイメージングと静脈造影が36時間内に実施された。⁹⁹^mTc-Apcitideは740MBqが静脈内投与され、投与後10分、60分、および120-180分に前面像を撮像した。図2に⁹⁹^mTc-ApcitideによるDVT症例のイメージングを示す。大腿部からふくらはぎにかけて強い放射能の集積(血管に沿った線状の濃染)が、投与後10分から認められ、投与後120分には更に明瞭である。表1に全試験結果のまとめを示す。　　ブラインド読影および主治医読影ともに当初の目標成績を満足した。しかし、この成績は同時に実施した血管造影の結果を基準としている。静脈造影では、新鮮な血栓のみならず、古い(血栓肺塞栓を起こす危険性のない血栓)をも検出してしまうので、これが血管造影の欠点にもなっている。そこで、全症例のうち、血栓の既往歴のある患者を除き、さらに発症から3日以内の患者のみについて再評価したところ(修正-主治医読影)、感度は90.6%に改善した。以上の結果より、⁹⁹^mTc-Apcitideは新鮮で活動的な血栓のみを陽性に描出するのに優れた製剤と考えられた。本邦での臨床応用の着手が期待される。図2　⁹⁹^mTc-ApcitideによるDVT患者(39歳、男、DVTの既往歴なし)の投与後10分、60分および120分のイメージング。Ant=前面像、Post=後面像。（原論文2より引用。　Reproduced from The Journal of Nuclear Medicine 2000; 41(7):1214-1223, Figure 1(p.1221), R.Taillefer, S.Edell, G.Innes, and J.Lister-James, Acute Thromboscintigraphy with ⁹⁹^mTc-Apcitide : Results of the Phase 3 MulticenterClinical Trial Comparing ⁹⁹^mTc-Apcitide Scintigraphy with Contrast Venography for Imaging Acute DVT, Copyright(2000), with permission from Society of Nuclear Medicine.）表1　欧米における⁹⁹^mTc-Apcitideの臨床試験3相の成績*(有効症例数243)。 -------------------------------------------------------------------------------- 感度(sensitivity) 特異性(specificity) 精度(accuracy) --------------------------------------------------------------------------------- ブラインド読影 73.7 % 67.5 % 69.1 % 主治医読影 75.5 % 72.8 % 74.0 % 修正-主治医読影** 90.6 % 83.9 % 87.3 % --------------------------------------------------------------------------------- * 同時に実施した静脈造影の結果を基準に評価した。 ** 既往歴がなく発症後3日以内の63症例に関する成績。コメント　　　　：　活動性の血栓を特異的に検出する方法が、本邦でも待ち望まれている。核医学は最もこの目的に適した診断法と期待される。本邦の統計上の患者数は少ないが、潜在患者数は相当あるのではないかと危惧される。肺塞栓に結びつきやすい高リスクの疾患であるので、優れた製剤の開発が望まれる。この製剤は26個のアミノ酸からなる比較的大きなペプチドで、二量体かつ環状にするなど、分子デザインに工夫が施されている。原論文１ Data source 1： Small peptides radiolabeled with ⁹⁹^mTc J. Lister-James, B.R. Moyer and T. Dean Diatide Inc Q. J. Nucl. Med. 40: pp221-33, 1996 原論文２ Data source 2： Acute thromboscintigraphy with ⁹⁹^mTc-apcitide: Results of the Phase 3 multicenter clinical trial comparing ⁹⁹^mTc-apcitide scintigraphy with contrast venography for imaging acute DVT. Raymond Taillefer, Stephen Edell, Grant Innes, and John Lister-James Hotel-Dieu, Montreal, Quebec and Royal Columbian Hospital, Delaware SPECT Imaging Center and Diatide, Inc. J Nucl Med 41(7) pp1214-1223, 2000. 参考資料１ Reference 1： Radio-labeled receptor-binding peptides: A new class of radiopharmaceuticals Otto C. Boerman, Wim J.G. Oyen and Frans H.M. Corstens Department of Nuclear Medicine, University Medical Center Seminars in Nuclear Medicine XXX (3), pp195-208, 2000 キーワード：核医学 nuclear medicine, 放射性医薬品 radiopharmaceutical, 画像診断 diagnostic imaging, シンチグラフィ scintigraphy, テクネチウム-99m ⁹⁹^mTc, 血栓 thrombus, 深部静脈血栓 deep venous thrombosis, ⁹⁹^mTc標識アプシタイド ⁹⁹^mTc-apcitide, GPIIb/IIIa 受容体 GPIIb/IIIa receptor 分類コード：030301, 030403, 030502
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