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作成: 2002/12/27 山本和高
データ番号 :030243
耳・側頭骨の画像診断
目的 :CT、MRIによる耳・側頭骨領域の画像診断
放射線の種別 :エックス線
放射線源 :X線管
概要 :
中耳や内耳の病変は難聴、耳鳴、めまいといった症状を示す。画像診断では、中耳や内耳の微細で複雑な構造を、確実に描出できる分解能の高い画像検査が不可欠である。最近のMDCT(多検出器列型CT)の導入や、MRI(磁気共鳴画像)検査装置の進歩、新しい撮像法の応用などにより、画質の良好な高分解能画像が、短時間で得られるようになり、耳・側頭骨領域の画像検査の臨床応用は、大きく変化している。
詳細説明 :
側頭骨領域の単純X線撮影法にはSchueller法、Stenvers法などがあり、側頭骨全体のおおまかな情報を得ることができるが、CT検査を行うのであれば単純X線検査は省略できる。
CT検査では、多検出器列型CT(Multi-detector row CT; MDCT)の導入によりスキャン時間の短縮(最短0.5秒)、スライス幅の狭小化(0.5mm)が可能となり、partial volume effect(部分容積効果)の影響の少ない、高分解能の良好な画像が得られ、しかも、横断断層像と等しい分解能を有する冠状断層像を再構成できるので、頭部を前屈または後屈させて冠状断でのCT撮影を追加する必要が解消された。また、三次元再構成像の画質も著明に向上した(図1)。
図1 耳小骨の三次元再構成画像。ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨のつながりが示されている。右は耳小骨のみを取り出して、異なる方向からながめた三次元画像。(原論文2より引用)
CTが骨の描出に優れているのに対して、磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging; MRI)は軟部組織や液性成分の描出に優れており、撮像時間の短縮、分解能の向上により蝸牛の内部構造の区別も可能になってきている。図2はMR hydrographyによる内耳の三次元画像で、蝸牛の回転や、三半規管の各部が明瞭に描出されている。
図2 MR hydrographyによる内耳の三次元画像。蝸牛の回転、三半規管(ASC, PSC, LSC; Anterior, Posterior, Lateral Semicircular Canal)、前庭(V; Vestibule)、膨大部(A; Ampulla)などが描出されている。(原論文3より引用)
先天奇形
先天性側頭骨奇形の診断にはCTで微細な骨構造を描出しなければならない。例えばアブミ骨脚の太さは0.5mm以下であり、1mmスライスのCT像では判断が難しい。外耳では外耳道閉鎖、中耳では耳小骨奇形、なかでもキヌタ骨長脚とアブミ骨頭の欠損の頻度が高く、内耳では骨迷路の低形成、蝸牛、半規管の発育不全などがある。側頭骨奇形はほとんど難聴をきたし、小児の発達に影響を与える可能性があるので早期に診断し治療方針を決める必要がある。
慢性炎症性病変
慢性中耳炎では、乳突部の蜂巣構造の発育や含気が低下する。慢性化膿性中耳炎では粘膜肥厚、肉芽組織、分泌液などが軟部組織陰影として認められる。癒着性中耳炎では、癒着の程度により中鼓室の含気が減少ないし消失する。コレステリン肉芽腫が形成されるとMRIのT1,T2両強調像で高信号を示す病変が見られる。
先天性中耳真珠腫では鼓膜に連続しない真珠腫塊が軟部組織陰影として中耳腔に見られる。後天性真珠腫では、上鼓室外側壁の骨破壊が見られ、進展すると耳小骨にも骨破壊が及ぶ。特にアブミ骨の上部が残っているかどうかは手術法選択のキーポイントとなる。
中耳炎は、迷路瘻孔か卵円窓、正円窓のいずれかの経路を経て内耳に波及する。迷路瘻孔のなかでは、後天性真珠腫の好発部位に近い外側半規管瘻孔が最も頻度が高い。内耳炎の診断にはMRIが適しており、内耳の線維化があれば信号が低下し、活動性の内耳炎で血管・内耳関門が破綻するとガドリニウム造影MRIで内耳に造影効果が認められる。
腫瘍性病変
外耳道の良性腫瘍には外骨腫の頻度が高い。サーファー・イヤー(surfer's ear)と呼ばれ、寒冷水による頻回の外耳道への冷刺激が誘引と考えられる。悪性腫瘍では扁平上皮癌が多く、CTで骨部外耳道の境界不鮮明な虫食い状の骨破壊像が見られる。
中耳原発の腫瘍には顔面神経鞘腫、グロームス腫瘍などがある。グロームス腫瘍は神経堤細胞由来で、血流が豊富で、造影効果が高く、MRIでflow voidによる低信号部が認められることもある。
聴神経腫瘍は、上前庭神経から発生することが多く、大きくなると内耳道の拡大をきたすが、MRIでは内耳道の拡大を伴わないような小さな腫瘍でも高分解能T2強調像により造影剤を使用せずに検出することができる。進行性の感音性難聴を呈する患者に対してはMRIによるスクリーニング検査がすすめられる。
側頭骨骨折
側頭骨の骨折は縦骨折と横骨折に大別される。縦骨折は、側頭骨骨折の80%近くをしめ、側頭部や頭頂部の打撃により発生することが多く、錐体の長軸に沿って骨折線が走行する(図3)。横骨折は錐体の長軸に直交して骨折線が走行するもので、後頭部の打撃が原因となることが多い。
図3 側頭骨縦骨折。錐体の長軸に沿って骨折線が認められる(矢印)。
人工内耳の適応
高度な難聴に対する治療法である人工内耳の適応の判定や、手術実施計画にもCTやMRIの果たす役割は大きい。画像の読影のポイントの1例として、内耳道の神経の描出を示す。図4左は、健常者の内耳道T2強調矢状断MRI像で、上前庭神経、下前庭神経、蝸牛神経、顔面神経を判別することができる。図4右は、右高度難聴の患者で、左側の蝸牛神経は同定できるが、右側の蝸牛神経は同定できない。蝸牛神経が描出されれば人工内耳の効果が期待できる。MRIの解像力、partial volume effectなどの影響を考慮して、できるだけ薄いスライス厚で、適切な方向からの撮影を行い、確実な所見を得ることができる慎重な検査を実施しなければならない。
図4 内耳道のT2強調矢状断MR像。健常者(左)では上前庭神経(sv)、下前庭神経(iv)、蝸牛神経(c)、顔面神経(f)を判別できる。右高度難聴の患者では、左側の蝸牛神経(右下、矢印)は同定できるが、右内耳道では蝸牛神経を明確に同定できない(右上)。
コメント :
耳領域の病変の診断には、極めて分解能の高い画像が必要である。MDCTの導入により、スライス幅の薄い精細な画像を短時間に撮影することができるようになり、従来のCTよりも高レベルの臨床応用が可能になってきた。撮影するスライス枚数が増えると被曝線量も増加する。被曝線量をできるだけ少なくする努力はしなければならないが、患者の被曝を減らすために不十分な検査しかしないのでは本末転倒である。しかし、耳領域に限ったことではないが、検査時間の短縮など、被験者に対する侵襲が少なくなっていることも影響しているのか、適応の乏しい検査も少なからず行われていることには注意を要する。
原論文1 Data source 1:
21世紀耳鼻咽喉科領域の臨床3 画像診断
飯沼壽孝
埼玉医科大学耳鼻咽喉科
中山書店 2001年11月
原論文2 Data source 2:
マルチスライスCTの現状と将来
齋藤泰男
東芝医用システム社
INNERVISION 第16巻第8号 14−17頁 2001年8月
原論文3 Data source 3:
MR labyrinthographyとMR cisternography
長縄慎二
名古屋大学医学部放射線医学講座
日本医学放射線学会雑誌付録 61巻13号2−6頁 2001年11月
キーワード:耳 ear、中耳 middle ear、内耳 inner ear、側頭骨 temporal bone、耳小骨 ossicles、三半規管 semicircular canal、
分類コード:030102,030106
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