神経芽腫の放射線治療

放射線利用技術データベースのメインページへ
作成： 2004/09/13 正木英一データ番号　　　：030267 神経芽腫の放射線治療目的　　　　　　：小児神経芽腫に対する放射線療法の意義についての紹介放射線の種別　　：エックス線,電子放射線源　　　　：超高圧X線発生装置（放射線治療装置）線量（率）　　　：200-500cGy/min 応用分野　　　　：医学、放射線治療概要　　　　　　：進行神経芽腫は予後不良で放射線治療、化学療法、手術療法の集学的治療による治療を必要としている。欧米に先駆け、進行神経芽腫の多剤併用化学療法を1985年より開始した日本では、その治療成績が飛躍的に向上し、その先駆的役割を果たした。さらに、二期的手術あるいは遅延一期的切除により腫瘍全摘術が行われるようになり、その際に行われる術後照射あるいは術中照射により進行神経芽腫の局所コントロールが確実なものとなった。詳細説明　　　　：１）はじめに神経芽腫は6ヶ月乳児検診時の尿中カテコールアミン代謝産物であるvanillylmandelic acid（VMA：バニリルマンデル酸）、homovanillic acid（HVA：ホモバニリン酸）定性によるマススクリーニングにて早期診断が可能となり、１歳以下のマススクリーニング症例では殆ど治癒するようになったが、進行症例の治療成績は相変わらず悪い。化学療法の強化と二期的手術あるいは遅延一期的切除により腫瘍全摘術が行われるようになったが、術後照射あるいは術中照射により初めて局所コントロールが確実なものとなる。　２）病理分類間質増生量、神経芽細胞の成熟度および神経芽細胞の核分裂-核崩壊指数の組織学的パラメーターと患者の年齢に基づいて、予後良好か予後不良かを明らかにしている臨床病理学的Shimada分類が用いられている。腫瘍細胞の染色体数が2倍体、MYCN遺伝子の増幅、trkA遺伝子の低発現、血清NSE(neuron specific enolase)の高値が予後不良因子として知られている。　３）病期分類(stage) International Neuroblastoma Staging System(INSS)が国際的に認知された（表1）。表1　神経芽腫国際分類（INSS）（原論文1より引用） Stage 1 完全巨視的切除された限局した腫瘍，顕微鏡的腫瘍残存は問わない；同側リンパ節に顕微鏡的転移を認めない（原発巣に所属し摘出されたリンパ節は転移を認めても良い）。 Stage 2A 不完全巨視的切除された限局した腫瘍；同側の癒着していないリンパ節に顕微鏡的転移を認めない。 Stage 2B 完全または不完全巨視的切除された限局した腫瘍，同側の癒着していないリンパ節に転移あり。腫大している対側のリンパ節は顕微鏡的転移があってはならない。 Stage 3 摘出不能な正中線を越える一側性の腫瘍，局所リンパ節転移はありまたはなし；または対側の局所リンパ節転移がある片側性腫瘍；または（摘出不能な）浸潤あるいはリンパ節転移によって両側に進展する正中部腫瘍。 Stage 4 遠隔リンパ節，骨，脊髄，肝，皮膚または/あるいは他臓器転移（4Sと確定されたものは除外する）を有する腫瘍で原発部位は問わない。 Stage 4S 原発は（stage1，2Aあるいは2Bと確定された）限局性腫瘍，転移は皮膚，肝または/あるいは骨髄に限局している（１歳以下の乳児に限る）。４）治療方針 INSS stage 1と、stage 2でリンパ節転移がなく全摘されたものには術後放射線療法は必要ない。しかし、予後不良因子であるMYCN癌遺伝子の増幅が認められたり、リンパ節転移のあるstage 2以上の進行期には術後照射あるいは術中照射を局所療法として採用することにより局所制御率が高まっている。近年、進行病期であっても予後不良因子のないものには、局所療法としての手術・放射線治療の軽減化が考えられ始めている。　５）治療方法１．標的体積 GTV：手術前（初診時）ＣＴにて認められた原発巣、リンパ節転移巣。 CTV：GTVにマージンをとってCTVとする。このマージンは、化学療法後の遅延一期的切除が主流である現在、術者による腫瘍浸潤範囲の情報に基づく必要がある。リンパ節転移には注意が必要である。腹腔内原発の時、横隔膜脚を越えて連続的に後縦隔リンパ節転移を来すことが多く、腹部大動脈分岐部以下の総腸骨動脈周囲リンパ節転移も起こる。初診時所見、手術所見を参考に、リンパ節転移領域が全て照射野に含まれるようにする。 PTV：CTVに呼吸移動（インターナルマージン）などを考慮して設定する。本邦で進行神経芽腫に対する統一プロトコール作成が準備されており、それには遅延一期的切除あるいは二期的手術を行う前の化学療法により縮小した腫瘍巣を原発巣のGTVとすることが提案されている。小児では脊椎への影響を考慮し、椎体全幅を照射野に入れる前後２門照射が適応となる（図1）。図1　神経芽腫3歳男児 Stage Ⅲの術後照射野：シミュレーション写真（原論文1より引用）２．線量 1日線量1.8～2Gyで週5日間照射を原則とする．術後放射線治療として1歳以下は極力放射線治療を避けたいが、20Gy/2.5～3週間は必要となる．2歳までは24Gy/3週間、2歳以上は30Gy/3～4週間の外照射が必要となる。骨髄破壊的化学療法を前処置とした自家幹細胞移植療法においては20Gy/2.5～3週間で良いと考えられている。化学療法を術直後から実施でき、腫瘍巣にのみ照射することが可能な術中照射を年長児で適応とすることがあり、電子線エネルギー6MeV 10～12Gyにて顕微鏡的残存腫瘍は制御されている。最終治療として、骨髄移植を前提とした骨髄破壊的化学療法を行うことにより、骨転移部も術前・術後化学療法に併せての20Gy照射にて制御可能となり、治療成績が悲惨であった進行神経芽腫でも治癒を得るようになった。　６）治療成績日本小児外科学会悪性腫瘍委員会の1986～1990年登録症例の予後追跡調査では累積5年生存率74.7%で、マススクリーニング症例97.4%、マススクリーニング症例以外60.9%である。コメント　　　　：小児腫瘍の発生数は非常に少なく、本邦においてはその標準的な治療法が確定されていない。進行神経芽腫における放射線治療は、多剤併用化学療法の強化によっても手術療法と同じ局所療法として重要な地位を占めている。二期的手術あるいは遅延一期的切除により腫瘍全摘術が行われるようになったが、術後照射あるいは術中照射により初めて進行神経芽腫の局所コントロールが確実なものとなる。現在、神経芽腫の全国的な治療研究が行われようとしており、その結果の医療の標準化に期待したい。原論文１ Data source 1：小児　Ⅱ．神経芽腫．正木英一国立成育医療センター放射線診療部放射線治療計画ガイドライン　2004、日本放射線科専門医会・医会、日本放射線腫瘍学会、（社）日本医学放射線学会編．日本放射線科専門医会・医会発行、2004.7.1、pp.176-180 参考資料１ Reference 1：小児悪性固形腫瘍5腫瘍の予後調査結果の報告－1986～90年登録症例について－．日本小児外科学会悪性腫瘍委員会日小外会誌、1999; 35: 716-738 キーワード：神経芽腫、放射線治療、副腎腫瘍、小児腫瘍、肉眼的腫瘍容積、臨床的標的容積、計画的標的容積 Neuroblastoma, radiotherapy, adrenal tumor, pediatric tumor, GTV(gross tumor volume), CTV(clinical target volume), PTV(planning target volume) 分類コード：030201,030602
放射線利用技術データベースのメインページへ

Stage 1	完全巨視的切除された限局した腫瘍，顕微鏡的腫瘍残存は問わない；同側リンパ節に顕微鏡的転移を認めない（原発巣に所属し摘出されたリンパ節は転移を認めても良い）。
Stage 2A	不完全巨視的切除された限局した腫瘍；同側の癒着していないリンパ節に顕微鏡的転移を認めない。
Stage 2B	完全または不完全巨視的切除された限局した腫瘍，同側の癒着していないリンパ節に転移あり。腫大している対側のリンパ節は顕微鏡的転移があってはならない。
Stage 3	摘出不能な正中線を越える一側性の腫瘍，局所リンパ節転移はありまたはなし；または対側の局所リンパ節転移がある片側性腫瘍；または（摘出不能な）浸潤あるいはリンパ節転移によって両側に進展する正中部腫瘍。
Stage 4	遠隔リンパ節，骨，脊髄，肝，皮膚または/あるいは他臓器転移（4Sと確定されたものは除外する）を有する腫瘍で原発部位は問わない。
Stage 4S	原発は（stage1，2Aあるいは2Bと確定された）限局性腫瘍，転移は皮膚，肝または/あるいは骨髄に限局している（１歳以下の乳児に限る）。