放射線利用技術データベースのメインページへ
作成: 1996/09/02 松岡 祥介、辻井 博彦
データ番号 :040023
がん治療に用いられる粒子線
目的 :がんの粒子線治療の特徴、歴史と臨床結果
放射線の種別 :陽子,中性子,重イオン,中性粒子
放射線源 :シンクロトロン、サイクロトロン
線量(率) :50-80Gy (Photon Equivalent)
利用施設名 :高エネルギ-物理学研究所(筑波)など
照射条件 :空気中、室温
応用分野 :粒子線治療
概要 :
粒子線(中性子線、陽子線、π中間子線、重イオン線)は一般的治療に用いられる光子線及び電子線と比較して、腫瘍に集中して照射ができる優れた線量分布、及び/あるいは強い生物学的効果を有することが特徴である。各々の粒子線はその特徴に合せて特定の腫瘍に対して標準放射線治療を上回る治癒効果が得られている。粒子線治療の今までの歴史と臨床成績について述べた。
詳細説明 :
現在、がんの放射線治療では光子線(X線、γ線)と電子線が標準的な放射線である。一方、電子より重い粒子線(以下、粒子線)はいずれもサイクロトロン、シンクロトロンなどの加速器を用いて生産され、優れた線量分布及び強い生物学的効果を有しがん治療に応用されている。主に物理研究用の設備を利用しているが、医療専用の設備の建設が各地で施工または計画されている。中性子線、負π中間子線、重イオン線(ヘリウム、カ-ボン、ネオン etc.)は高LET(Linear Energy Transfar、放射線が飛跡の単位長さあたりに放出するエネルギ-)放射線であり、細胞周期、細胞酸素濃度、損傷回復能力に関係なく細胞の致死効果が高く生物学的効果が高い。一方、陽子線、ヘリウム線は低LET放射線であり、生物学的効果は光子線と同じである。線量分布は、中性子線は光子線と同様に体表面で線量が高く漸減するが、荷電粒子線の重イオン線、陽子線、負π中間子線は飛程終端部でエネルギ-の大部分を放出するBragg peakを形成し、これが腫瘍に集中した照射を可能とする(図1、2)。

図1 がん治療に用いられる放射線の種類、およびそれぞれの生物効果と線量分布特性

図2 放射線の深部線量率曲線の比較
速中性子線治療は1938年ロ-レンスバ-クレイ研究所で頭頚部癌を中心に開始され、高い抗腫瘍効果が見られたが、皮膚潰瘍などの障害が多いため治療は中止された。その後、速中性子線の生物学的効果が解明されたことを機会に、1966年から世界各地で行なわれるようになった。日本では1975年に放医研でサイクロトロンによる速中性子線治療が開始された。その結果、唾液線腫瘍、頭頚部腺様嚢胞癌、骨・軟部組織肉腫、前立腺腫瘍、肺腺癌など標準放射線では効果が低い、増殖の遅い腫瘍に効果があることがわかった。ボロン中性子捕捉療法は腫瘍に選択的に取り込まれるボロン化合物を投与し、原子炉の熱中性子線を照射する。この熱中性子線がボロンと作用すると、飛程が非常に短い、生物効果の高いα線を放出する。武蔵工大、原研、京大炉で主に皮膚悪性黒色腫と脳腫瘍に対して行なわれている。
負π中間子は飛程終端部で組織中の原子核を破壊し、原子核残片などを飛散させ(スタ-現象)、線量分布と生物効果の両者で優位性を備えている。1970年代に米国のLAMPF、カナダのTRIUMF、スイスのPSIでがん治療に使用が開始された。前立腺癌、膀胱癌、骨・軟部組織肉腫の局所制御が良好であり、荷電粒子線治療の基礎研究、照射技術の開発において貢献をした。しかし、陽子線、重イオン線と比較しBragg Peakの線量分布が先鋭でないこと、生物学的効果が速中性子線、重イオン線より劣ることが弱点となり3施設とも治療は中止されている。
陽子線はBragg Peakの優れた線量分布を示し、周辺正常組織を温存し、腫瘍に線量を集中できることが最大の特長である。1954年にロ-レンスバ-クレ-研究所で臨床応用が開始され、ハ-バ-ド大学、放医研など17施設で陽子線治療が行われている。対象は頭蓋内小病巣、眼球内腫瘍が約70%を占め、網膜悪性黒色腫は局所治癒96%、頭蓋底、頚椎原発肉腫は65-91%の優れた局所治癒が得られている。体幹部腫瘍の治療は筑波大学陽子線医学利用研究センタ-で行なわれ、原発性肝癌では従来の約150%もの線量が照射可能で約90%の局所制御が得られている。陽子線は最も実用的な粒子線であり、1990年、米国のロマリンダ大学では小型シンクロトロンで回転ガントリ-を持つ医療専用の陽子線施設が設立された。
重イオン線は、陽子線の優れた線量分布と速中性子線の高い生物効果の両者を兼ね備えた理想的な放射線である(ヘリウム線は陽子線とほぼ同じ性質)。重イオン治療は1957年、ロ-レンスバ-クレイ研究所(LBL)でヘリウムイオンを用いて開始され、眼球腫瘍で良好な結果が得られている。1979-1993年の間に同研究所で行なわれたネオンイオン治療では、唾液腺癌、副鼻腔癌、骨・軟部組織肉腫、前立腺癌、胆管癌で速中性子線治療と同等かそれ以上の成績が得られた。重イオン治療は臨床経験が少ないが、1994年6月より放医研の医療専用加速器(HIMAC)で重イオン治療が開始されており、その結果が待たれる。
コメント :
粒子線治療はがんの治療において、患者のQOL(Quality of Life)の面からも今後さらに期待される治療である。現在まで、主に物理研究用の施設を利用して治療が行なわれてきたが、照射技術の面からも、回転ガントリ-を持つ等、医学専用粒子線治療施設の建設が必要であると考えられる。
原論文1 Data source 1:
陽子線治療の進歩と展望
辻井 博彦
筑波大学臨床医学系
日本放射線腫瘍学会誌, vol.6, 63-76 (1994)
原論文2 Data source 2:
Clinical results of fractionated proton therapy.
H.Tsujii, H.Tsuji, T.Inada et al
Proton Medical Research Center, Institute of Clinical Medicine, Tsukuba University.
Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., vol.25, 49-60 (1993).
原論文3 Data source 3:
粒子線治療の現状
坂本 澄彦
東北大学医学部放射線医学教室
パリティ, vol.10, 47-51 (1995)
原論文4 Data source 4:
Hadronic radiotherapy
P.L.Petti
Department of Radiation Oncology, Long-75, University of Carifornia, San Fransisco, Carifornia 94143-0226
Annu. Rev. Necl. Part. Sci., vol.44, 155-197 (1994).
原論文5 Data source 5:
Long-term result of pion therapy at Los Alamos.
C.F.von Essen, M.A.Bagshow, S.E.Bush et al.
Cancer Research and Treatment Center and Department of Radiology, University f New Mexico, School of Medicine.
Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., vol.13, 1389-1398 (1987).
原論文6 Data source 6:
Fast neutron radiation therapy
T.W.Griffin
Department of Radiation Oncology, University of Washington, Seattle, U.S.A.
Clitical Reviews in Oncology/Hematology, vol.13, 17-31 (1992).
原論文7 Data source 7:
重荷電粒子線治療
辻井 博彦、辻 比呂志、奥村 敏之
筑波大学・陽子線医学利用センタ-
画像医学プログレスシリ-ズ, 4 放射線腫瘍学・免疫核医学 p.95-114 (1993) 中山書店
原論文8 Data source 8:
高LET放射線治療の展望
恒元 博
放射線医学研究所
日本放射線腫瘍学会誌, vol.7, 265-279 (1995).
原論文9 Data source 9:
Neon ion radiotherapy :Results of the phase ��/�� clinical trial.
D.E.Linstadt, J.R.Castro and T.L.Phillips.
Department of Radiation Oncology, University of California, San Francisco, and Research Medicine Division, University of California Lawrence Berkeley Laboratory.
Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., vol.20, 761-769 (1991).
キーワード:陽子線治療、速中性子線治療、π中間子線治療、重イオン治療、荷電粒子
Proton therapy, Fast neutron therapy, Pion therapy, Heavy-ion therapy, Charged particles
分類コード:040106, 030202
放射線利用技術データベースのメインページへ