作成: 1999/11/12 鈴木 健訓
データ番号 :040165
ポジトロンCT(PET)装置の概要
目的 :核医学診断、工業界における流動体の可視化
放射線の種別 :陽電子,ガンマ線
放射線源 :陽子加速器(10-50MeV,10-60mA)、重イオン加速器(5-20MeV,10-60mA)、放射性同位元素(50-200MBq)
線量(率) :0.2-2mGy
利用施設名 :放射線医学総合研究所、金沢循環器病院、東北大学、他多数の医療施設
照射条件 :室温、1気圧
応用分野 :核医学画像診断、化学工業界における流動体の可視化
概要 :
陽電子(e+)は物質中でエネルギ-を失なった後、物質中の電子(e-)と相互作用をして消滅し、2本の消滅ガンマ線を正反対の方向に放出する。両側にガンマ線測定装置を配置し、消滅ガンマ線の同時測定を行うことによって、陽電子の消滅した時間と位置を測定することができる。ポジトロンCT(PET)はこの原理を利用した装置で、主に核医学診断に使用されており、他に工業界における利用も試みられている。
詳細説明 :
陽電子(e+)は電子(e-)の反物質で自然界には存在しないが、加速器や原子炉を使い放射性同位元素(RI、radio isotopes)を生成することによって、手軽に実験や治療に使うことができる。陽電子は物質中に入射すると、物質中の原子・分子と相互作用を繰り返した後エネルギ-を失い、最終的には周囲の電子と結合して、2本の消滅ガンマ線を放出する。この消滅ガンマ線は、陽電子と電子の質量が光に変わったもので、電子・陽電子の質量に相当する511keVのエネルギ-を持っており、正反対方向に放出される。両側にガンマ線測定装置を配置し、消滅ガンマ線の同時測定を行うことによって、消滅した時間や場所を測定することができ、ポジトロンCT ( Positron Computed Tomography, PET, Positron Emission Tomography )はこの原理を利用している。

図1 PETの測定原理(原論文1より引用)
PETは核医学診断に広く利用されており、医学利用におけるPET装置の概念図を図1に示す。原理的には、陽電子の消滅した時間と位置を特定できるが、このためにはTOF-PET (Time of Flight-PET)という一段階進んだ装置が必要である。図にあるように、被験者の周囲に検出器リングがあり、リングを構成する測定器はガンマ線を測定するシンチレ-ションカウンタ-とその光を増幅する光電子増倍管(PMT)の組み合わせからできている。PMTからの信号は、信号処理回路で使用できるように整形された後、どの測定器から信号が出たかを判別する同時計数回路に送られ、180度方向にある測定器の組み合わせを判別する。

図2 PETの投影デ-タ(原論文1より引用)
次に、デ-タを処理する計算機で同時計数回路の情報を処理し、図2で示すような投影デ-タの分布を求める。いくつかの異なった角度の投影デ-タ分布を用いて被写体の中で消滅した陽電子の分布の情報を得て、最終的には被写体の内部の状況を断層画像として示すことができる。これらの分布から画像を再構成する手法には重畳積分法や逐次近似法などがある。また、デ-タについても多くの補正(吸収、散乱、他)が必要であり、これらの問題を解決することによって、PETが製品として製作されるようになり、現在、多くの医療施設(表1)で使用されている。
表1 日本におけるPET施設(原論文2より引用)
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施設名 所在地 PET装置 サイクロトロン
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日鋼記念病院 北海道 島・SET-130W(特型) 日
日本アイソトープ協会仁科記念 岩手県 島・SET-1400W 島
サイクロトロンセンター
秋田県立脳血管研究センター 秋田県 島・SET-230,130W,1400W 日・BC168
東北大学サイクロトロン・ラジオ 宮城県 シ・ECAT931 住・AVF680
アイソトープセンター シ・PT-931,711(東北大と共同開発)
群馬大学医学部付属病院 群馬県 日立・PCT-H1(4リング型) 日・BC1710
千葉大学医学部付属病院 千葉県 島・SET-110W 住・CYPRIS370
放射線医学総合研究所 千葉県 日立・PCT-3600W 住・AVF930
国立療養所中野病院 東京都 島・SET-130W(特型),120 日・BC105
東京大学医学部付属病院 東京都 島・SET-1400W 住・CYPRIS370
東京都老人総合研究所 東京都 島・SET-1400W 住・CYPRIS370
金沢循環器病院 石川県 島・SET-1400W-10 日・BC1710
名古屋福祉健康センター 愛知県 日立・PCT-3600W 住・CYPRIS370
名古屋大学医学部付属病院 愛知県 島・SET-1400W 日・BC2211
西陣病院 京都府 島・SET-120W 日・BC1710
京都大学医学部付属病院 京都府 日立・PCT-3600W 住・CYPRIS325
�蠕限竜’集Φ羹� 大阪府 シ・ECAT931 住・CYPRIS-HM18
国立循環器病センター 大阪府 島・SET-1400W-10 住・CYPRIS370
大阪市立大学医学部付属病院 大阪府 島・SET-1400W-10 N・SCC12P
兵庫県立高齢者脳機能研究センター 兵庫県 島・SET-1400W N・SCC12P
九州大学医学部付属病院 福岡県 島・SET-130W 日・BC1710
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N:NKK, 住:住友重機, 日:日本製鋼, 島:島津製作所, シ:シーメンス, 日立:日立製作所
PETに使用する陽電子は、陽電子を放出する短寿命のRIから得られる:11C(20.39), 13N(9.965), 15O(2.037), 18F(109.8)(括弧内の数字は半減期を示し、単位は分)。これらのRIは通常陽子加速器や重イオン加速器を用いて生成され、寿命は数分から1時間で短寿命である。従って、加速器は使用現場に近接しているか、あるいは、離れている場合でも短時間に緊急輸送できる体制が整っていなければ、輸送している間に放射能は減衰し、利用することは難しい。表1に示す医療施設では病院内か或いは学内に加速器施設を持っており、核医学診断に積極的に利用している。PETでは、生体を構成する基本元素である炭素C、窒素N、酸素O等のRIを使用できるため、生理学的に無理の無い状態で検査ができ、生体にあるいろいろな物質を標識できるという特徴を持っている。また、これらのRIは短寿命であるため、検査後放射能が減衰し被験者の受ける被曝線量も少ない。
PETは核医学診断で広く使用されているが、工業界でも使用する試みがなされている。消滅ガンマ線の同時測定を行うことによって、消滅した場所を特定できるため、流動体の内部の運動を非破壊的に可視化する装置と考えることができ、化学工業界における流動層の中の流体の動きに応用した例や、また、自動車エンジンの中の構造やガスタ-ビンの中の構造を研究した例が報告されている。被曝を考慮する必要がないため、扱いやすいRIを用い、長時間計測可能で画像精度を高めることができる。
コメント :
PETは内部を見ることのできない構造体の中の流動体の動きを非破壊検査で測定可能であり、可視化できるという点で優れている。特に核医学診断における貢献は大きく、人間の脳や心臓における診断では威力を発揮している。また、植物の中の水の流れや栄養分の分布、工業界における流動体(化学工業の流動層等)の可視化など応用は広範囲の分野にわたる。
原論文1 Data source 1:
ポジトロン・エミッション・トモグラフィ 1.原理と概要
野原 功全
放射線医学総合研究所
Radiaisotopes, vol.42, p. 189-198 (1993)
原論文2 Data source 2:
ポジトロン・エミッション・トモグラフィ 5.PETの医学利用
外山 比南子
東京都老人総合研究所
Radioisotopes, vol.42, p. 365-376 (1993)
原論文3 Data source 3:
ポジトロン医学の進歩 ポジトロンCT技術の進歩
田中 栄一
放射線医学総合研究所
原子力総合シンポジウム予稿集、p. 28-29 (1984)
参考資料1 Reference 1:
ポジトロン・エミッション・トモグラフィ 3.画像の再構成とデ-タ補正
村山 秀雄
放射線医学総合研究所
Radioisotopes, vol.42, p. 244-254 (1993)
参考資料2 Reference 2:
Some comments on the development of radiation and radioisotope measurement applications in industry
C.G.Clayton
Sprole House
Appl. Radiat. Isot., vol.41, p. 917-934 (1990)
参考資料3 Reference 3:
Application of positron emission tomography to particulate flow measurement in chemical engineering process
C.R.Bemrose, P.Fowles*), M.R.Hawkesworth2*) and M.A.O'Dwyer2*)
Chemical Engineering, *)Chemistry Department, 2*)Physics Department, University of Birmingham
Nuclear Instrument Methods in Physics Research, A273, p. 874-880 (1988)
参考資料4 Reference 4:
Aspects of the application of positron emission tomography to engineering studies: drawing overlays and correction for photon attenuation
M.A.O'Dwyer, M.R.Hawkesworth and J.Walker
Physics Department, University of Birmingham
Nuclear Instrument Methods in Physics Research, A273, p. 898-903 (1988)
キーワード:陽電子、陽電子消滅、核医学診断、断層撮影、放射性同位元素
Positron, Positron Annihilation, Nuclear Medicine Examination (Diagnosis), Positron Emission Tomography (Positron Computed Tomography), Radio Isotopes
分類コード:030102,030301,040203,040304