高純度鉄中の不純物分析

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作成： 1999/09/30 鈴木　章悟データ番号　　　：040190 高純度鉄中の不純物分析目的　　　　　　：高純度鉄中の微量元素の定量放射線の種別　　：中性子,ガンマ線放射線源　　　　：原子炉(100kW) フルエンス（率）：1x10¹²-4x10¹²n/(cm²・s) 利用施設名　　　：立教大学原子炉(TRIGA-II型) 照射条件　　　　：空気中応用分野　　　　：分析化学、材料科学、環境科学、γ線測定、非破壊分析概要　　　　　　：　高感度な微量元素の分析法である機器中性子放射化分析(INAA)を用いて高純度鉄中の不純物元素を分析した。日本鉄鋼認証標準物質の高純度鉄標準物質JSS001-3, JSS001-4, JSS002-3, JSS003-2, JSS003-4について130-750mgを立教大学原子炉で2分間と6時間の照射を行った。γ線測定は通常のγ線スペクトロメトリのほか、Ge検出器と井戸型NaI(Tl)検出器とを組み合わせた反同時測定法でも行った。56元素の定量を試みて7-13元素が定量できた。詳細説明　　　　：　金属材料の高純度化のため、材料中の不純物元素を分析する技術の確立が、必要とされる。特に、鉄鋼の材質には不純物元素が大きな影響を与えている。高純度材料中の微量元素の分析には、汚染の恐れがない非破壊分析ができる機器中性子放射化分析(INAA)が適している。純度99.999%(5N)程度である日本鉄鋼認証標準物質(JSS)の高純度鉄標準物質、JSS001-3, JSS001-4, JSS002-3, JSS003-2およびJSS003-4の不純物微量元素の分析が行われた。　試料は粒状であり、秤量して洗浄したポリエチレン袋に二重封入した。各試料とも130-750mgの試料重量で、5-8個分析した。定量は比較標準試料を用いた比較法で行った。試料の照射は短時間および長時間の2種類の条件で立教大学原子炉で行った。短時間照射は気送管(熱中性子束密度1.5x10¹² n cm^-²s^-¹)で2分間行った。1-10分間冷却後、同軸型Ge検出器と4096チャネル波高分析器を用いて、半減期が数分から数時間の核種に注目して6-25分間γ線測定を行った。長時間照射は中央実験管(熱中性子束密度3.7x10¹² n cm^-²s^-¹)で6時間行った。2-7日間冷却後、武蔵工大原研の同軸型Ge検出器と4096チャネル波高分析器からなるγ線スペクトロメトリ(GAMAシステム)を用いて、半減期が数10時間から数日の核種に注目して2-45時間測定した。さらに同一試料を9-40日間冷却後、再び半減期が数10日以上の核種に注目して18-230 時間測定した。　長時間照射試料は通常のγ線スペクトロメトリのほか、検出感度を上げるため同軸型Ge検出器とその周りをコンプトン散乱γ線検出用の井戸型NaI(Tl)検出器で囲んだ反同時測定法によるγ線スペクトロメトリでもγ線測定を行った。　得られたγ線スペクトルの解析は非線形最小二乗法によるピークフィッティング、注目核種による半減期補正等を自動的に行えるγ線スペクトル解析プログラム(GAMA98)を用いて、パソコンにより行った。得られた分析値は高速中性子による妨害核反応およびγ線測定時の高計数率によるγ線ピーク面積の減少について補正を行った。　表1に高純度鉄標準物質JSS001-4およびJSS003-4中の56元素の分析結果を示す。表1　Concentration of elements in JSS001-4 and JSS003-4 high pure iron (μg/g).（原論文1より引用。　（社）日本鉄鋼協会のご承認に基づき、鉄と鋼, Vol.85, 91-96 (1999), Table 3 (Data source 1, pp.93)から転載したものです.） -------------------------------------------------------------------- JSS001- 4 JSS003- 4 Element ------------------------------ --------------------------- This work Certified This work Certified -------------------------------------------------------------------- Na 0.202±0.018 0.206±0.027 Mg <9.9 <0.4^* <19 Al <0.19 <0.7 9.59±0.27 7^* Si <230 <3^* <430 43±4.2 S <210 1.9±0.42 <360 1.5^* Cl 1.74±0.26 <1.1 K <1.8 <0.26 Ca <4.4 <0.5^* <6.6 Sc <0.0036 <0.0033 Ti <2.8 <0.6^* <3.6 V 0.0371±0.0070 <0.1^* 0.101±0.006 Cr <8 <1^* <8 5±0.98 Mn <8 0.03^* 31.1±1.8 32±1.7 Co 0.258±0.0014 0.3±0.04 28.0±0.9 29±1.6 Ni <1.8 <0.3^* 39.3±2.4 36±1.1 Cu <0.81 0.5±0.12 18.3±0.9 18±0.9 Zn 6.32±0.94 6.8±0.83 <0.82 Ga <0.075 <0.11 As 0.191±0.008 <0.3^* 0.228±0.014 Se <0.13 <0.12 Br <0.020 <0.0099 Rb <1.0 <0.51 Sr <10 <12 Zr <14 <13 Mo <0.13 <0.3^* 0.630±0.030 Ag <0.16 <0.14 Cd <0.33 <0.18 In <0.0013 <0.0016 Sn <6.6 <0.4^* <6.7 Sb <0.0060 0.0290±0.0023 Te <0.48 <0.33 I <0.041 <0.086 Cs <0.037 <0.031 Ba <4.8 <3.0 La <0.0032 <0.0023 Ce <0.16 <0.091 Pr <0.089 <0.018 Nd <0.35 <0.19 Sm <0.00058 <0.00035 Eu <0.0031 <0.0041 Gd <0.44 <0.40 Tb <0.022 <0.021 Dy <0.0061 <0.0065 Ho <0.0038 <0.0021 Tm <0.024 <0.016 Yb <0.018 <0.0074 Lu <0.0039 <0.0023 Hf <0.029 <0.023 Ta <0.017 <0.011 W 0.252±0.032 0.3±0.09 0.349±0.037 Ir <0.00061 <0.00054 Pt <0.12 <0.072 Au <0.00026 <0.00012 Hg <0.12 <0.075 Th <0.020 <0.011 U <0.0060 <0.0035 -------------------------------------------------------------------- < Lower limit of determination,^*Reference value. 誤差は試料重量を変えて分析した繰り返し精度(標準偏差)である。定量できなかった元素は定量下限値を示す。また、日本鉄鋼連盟が定めた認証値および参考値も示す。JSS001-4では7元素が、JSS003-4では11元素が定量できた。この他JSS001-3では、Al, Cl, V, Co, Cu, Zn, As, Wの8元素、JSS002-3ではAl, V, Co, Cu, Zn, Ga, As, Wの8元素、JSS003-2ではNa, Al, V, Cr, Co, Ni, Cu, Zn, Ga, As, Mo, Sb, Wの13元素が、それぞれ定量できた。　図1にJSS003-4高純度鉄標準物質を立教炉の中央実験管で6時間照射、7日間冷却後、7時間測定したγ線スペクトルを示す。井戸型NaI(Tl)検出器と組み合わせた反同時測定法による同軸型Ge検出器のγ線スペクトルでは、⁵⁹Feなどのコンプトンバックグラウンドが通常のγ線スペクトロメトリに比べて最大約1/7に減少した。このためNiの分析に用いる⁵⁸Co 811keVなどの微小ピークが現れるようになり、反同時測定が効果的に働いていた。図1　γ-ray spectra of JSS003-4 high pure iron for 6h irradiation. (a)Conventional γ-ray spectrometry, (b)Anticoincidence γ-ray spectrometry; ①⁵⁹Fe 143keV, ②⁵⁹Fe 192, ③⁵⁸Co 811, ④⁵⁴Mn 835, ⑤⁵⁹Fe 1099, ⑥⁶⁰Co 1173, ⑦⁵⁹Fe 1292, ⑧⁶⁰Co 1332.（原論文1より引用。　（社）日本鉄鋼協会のご承認に基づき、鉄と鋼, Vol.85, 91-96 (1999), Figure 2 (Data source 1, pp.94)から転載したものです.）コンプトンバックグラウンドの低減により反同時測定法では微量元素が検出しやすくなっている。しかし、壊変時にカスケード状にγ線を同時に放出する核種を用いている元素については、反同時測定法ではγ線ピークが減少するため通常のγ線スペクトロメトリの方が適している。　表2に高純度鉄標準物質JSS003-4について、分析を試みた元素ごとに2つの測定法のうち定量下限値の低い方の測定法と、その定量下限値のオーダーを示す。表2　Lower limit of determination of elements in JSS003-4 high pure iron.（原論文1より引用。　（社）日本鉄鋼協会のご承認に基づき、鉄と鋼, Vol.85, 91-96 (1999), Table 5 (Data source 1, pp.95)から転載したものです.） ----------------------------------------------------- Lower limit of γ-Spectrometry Anticoincidence determination ----------------------------------------------------- 0.1～1 ng/g Ir Sm,Au 1～10 ng/g Na,Sc,Br,In,Sb,La, As,Ho,Yb Eu,Dy,Lu,U 10～100 ng/g V,Co,I,Cs,Tb,Hf, Mo,Ce,Pr,Tm, Ta W,Pt,Hg,Th 0.1～1 μg/g Al,Cu,Ga,Se,Ag, K,Zn,Rb,Cd,Te, Gd Nd 1～10 μg/g Cl,Ca,Ti,Ba Cr,Ni,Sn 10～100 μg/g Mg,Mn Sr,Zr 100～1000 μg/g Si,S ----------------------------------------------------- 　通常のγ線スペクトロメトリより反同時測定法の方が定量下限値が低くなる元素はKなど24元素で、Naなど19元素は反同時測定法より通常のγ線スペクトロメトリの方が定量下限値が低くなった。短時間照射で定量する13元素は通常のγ線スペクトロメトリのみの測定である。定量下限値は56元素のうち43元素で1μg/g以下であり、そのうちSm, Ir, Auの3元素では1 ng/g以下と超微量であった。コメント　　　　：　通常のγ線スペクトロメトリと反同時測定法を組み合わせた機器中性子放射化分析法(INAA)では、1μg/g以下の微量元素の定量が可能となる。認証値と定量値を比較すると、誤差範囲内で一致しており、さらに、認証値および参考値の示されていない数元素についても定量することができるので、標準物質の元素分析には適している方法である。環境科学など他の分野への応用もできる。原論文１ Data source 1：機器中性子放射化分析による高純度鉄標準物質中の微量元素の定量鈴木　章悟、岡田　往子、平井　昭司武蔵工大工学部鉄と鋼, Vol. 85, p. 91-96 (1999) 原論文２ Data source 2：機器中性子放射化分析法による高純度鉄及び鉄鉱石標準物質中の微量元素の定量鈴木　章悟、平井　昭司武蔵工大原研分析化学, Vol. 44, p. 209-215 (1995) 原論文３ Data source 3：機器中性子放射化分析法による日本鉄鋼標準試料中の微量元素の定量鈴木　章悟、平井　昭司武蔵工大原研分析化学, Vol. 41, p. T87-T90 (1992) キーワード：機器中性子放射化分析、高純度鉄、標準物質、微量元素、反同時測定γ線スペクトロメトリ、原子炉 instrumental neutron activation analysis,pure iron,certified reference material,trace element,anti-coincidence γ-ray spectrometry,reactor 分類コード：040404,010507
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