作成: 2001/10/21 前越 久
データ番号 :040254
医療用X線フィルム
目的 :医療用X線フィルムの特徴・性能の解説
放射線の種別 :エックス線
放射線源 :医療用X線発生装置
概要 :
医療用X線フィルムは、人体に対するX線の影響を小さくするため蛍光体により可視光線に変換してフィルムを感光させ、100分の1 以上被ばく線量を低減させた状態で撮影している。
詳細説明 :
人体にX線を照射すると、骨、筋肉、脂肪組織などの人体組織を透過するX線は、組織の吸収の度合いによって変化する。この吸収の度合いを2次元的な画像に変換したのがX線写真である。病気の発見を目的に撮られるX線写真は、X線フィルムによって記録された画像情報である。X線フィルムの感光物質は、一般のフィルムと同じハロゲン化銀であるが、そのままではX線に対する感度は非常に低いため、被写体である人体に多量のX線を被ばくさせてしまう。(X線診断時に患者がX線を被ばくすることを医療被ばくという)そこで、通常は蛍光体により可視光線に変換してフィルムを感光させ、100分の1 以上被ばく線量を低減させた状態で撮影している。表1は医療用X線フィルムの種類と用途別に分類したものを示す。
表1 医療用X線フィルムの種類と用途(参考資料1より引用。 )
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分類 種類 主な用途
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直 オルソフィルムタイプ
標準タイプ 一般撮影用、汎用
接 高コントラストタイプ 血管造影、骨
ラチチュードタイプ 食道、胃、十二指腸
撮 胸部用 胸部撮影
高感度タイプ 拡大血管造影
影 レギュラータイプ
標準タイプ 一般撮影
用 ラチチュードタイプ 食堂、胃、十二指腸
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間 一般用 胸部集団検診
接 I.I.用 胃集団検診
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そ ハードコピー用
CRT用 各種モダリティー
の レーザーイメージャ用 各種モダリティー
マンモグラフィ 乳房撮影
他 複製用 X線写真の複製
デンタル 歯科用
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〈直接撮影用X線フィルム〉
直接撮影用X線フィルムの特徴は、図1に示すように2枚の蛍光体によってX線フィルムをサンドイッチにして使用することである。この蛍光体のことを増感紙という。X線フィルムは乳剤を支持体両面にダブルコーティングした構造になっている。それはX線は透過力があるため、被写体を透過したX線をフロントとバックの増感紙が蛍光に変換し、この蛍光にX線フィルムが感光して、感度を上げる仕組みである。フィルムの乳剤層はハロゲン化銀とゼラチンから成り、その他、色素や添加剤などを含んでいる。高感度、高コントラストが要求されるX線フィルムでは、臭化銀に微量のヨウ化銀を加えたヨウ臭化銀(AgBr・I)が主に用いられている。添加剤には、カブリ抑制剤、ゼラチン膜を硬化させる硬膜剤、スタチックマーク防止のための帯電防止剤、フィルム表面のくっつきや摩擦防止のためのマット剤などがある。

図1 直接撮影の概念図と医療用X線フィルムの断面構造図
〈感色性とフィルム/増感紙システム〉
感色性とはフィルムの感光波長範囲のことをいうが、ハロゲン化銀固有の感光色は主に青色である。乳剤に分光増感色素を加えると感光波長域を広げることができる。この配合の程度により、直接撮影用X線フィルムには、レギュラーフィルム(非整色性)とオルソフィルム(整色性)がある。図2に両フィルムの感色性を示す。当然、フィルムの感色性と増感紙の発光スペクトルとは適合していなければならない。その関係も同図に重ねて示す。従来、レギュラーフィルムとタングステン酸カルシウム(CaWO4・発光スペクトル425nm、発光色:青)増感紙とを組み合わせて使用していたが、最近、オルソフィルムと希土類増感紙(Gd2O2S:Tb・発光スペクトル545nm、発光色:青+緑)とのコンビネーションの方がX線吸収効率、発光効率が高く、感度、画質の関係で優れているという評価で、徐々にこの組み合わせが採用される傾向にある。

図2 フィルムの感色性と増感紙の発光スペクトルとの適合性(参考資料2より引用。 )
〈感度と画質〉
X線写真の画質に影響する因子には、鮮鋭度、粒状性、コントラストを上げげることができる。X線フィルム/増感紙システムの感度を高くしようとすると、鮮鋭度や粒状性を悪くする。従って、最近の動向として、胸部撮影を対象としたX線フィルムや、血管造影撮影を対象としたハイコントラストタイプのものがあり、表1に示したように使用目的により選択している。
〈間接撮影用X線フィルム〉
消化管や胸部等の集団検診時に用いられるフィルムで、直接撮影と異なり、ミラーカメラ等を通して縮小像を撮影する方法である。フィルムの支持体の片面に下引き層を介してオルソタイプの乳剤が塗布されている。主要なサイズは、70mm、100mm幅で、長さ23m、30.5m、45.7m巻きの長尺ロールフィルムである。
〈マンモグラフィー用フィルム〉
近年、わが国においても乳ガンの発生率が増加の傾向にあり、早期発見のために乳房のX線撮影(マンモグラフィー)が重要視されてきた。乳房内の微細な情報を得るため高画質のX線写真が求められている。以前は、増感紙を用いないで撮影されていたが、撮影に使用するX線のエネルギーが低い(実効エネルギー:15keV)ため、被ばく線量が過大であった。最近では、高画質、高感度の片面乳剤フィルムと片面増感紙を組み合わせ、被ばく線量の低減を図っている。
コメント :
ここで述べた医療用X線フィルムはアナログ画像を記録する媒体である。最近は輝尽蛍光体を使用したCR(Computed Radiography)やフラットパネルを使用したデジタルX線画像に移行しつつある。デジタル画像は、画像処理により診断に適した画像に加工したり、遠隔地へ画像を伝送したりすることが可能になるため、今後ますます発展していくものと思われる。本方法では、主としてCRT診断が主となるが、ハードコピーは現像処理の不用な感熱フィルムが使用される。
参考資料1 Reference 1:
(社)日本放射線機器工業会編集
(社)日本放射線機器工業会
医用画像・放射線機器ハンドブック、電子計測出版社、1995.
参考資料2 Reference 2:
医用感光材料の基礎
竹内浩美編
コニカ株式会社メディカルコミュニケーションセンター、1997
キーワード:医療用X線、フィルム、人体組織、オルソフィルム、増感紙、臭化銀、希土類、医療被ばく、マンモグラフィー
medical X-ray, film, human body tissue, orthochromatic film, intensifying screen, silver bromiden, rare earth elements, medical exposure, mammography
分類コード:0400105, 040301, 040305