作成: 2001/10/11 山口 武憲
データ番号 :040256
環境放射線モニタリング
目的 :野外環境における放射線・放射能モニタリング
放射線の種別 :アルファ線,ベータ線,ガンマ線
放射線源 :宇宙線、地殻γ線
概要 :
環境放射線モニタリングは、原子力施設の運転、原子力事故、核爆発実験によるフォールアウト、原子力軍艦の寄港など、人間の活動に起因する放射線影響を測定・評価することであり、モニタリングの対象は施設周辺の空間放射線や種々の環境試料中の放射能である。空間放射線測定では地殻からの放射線や宇宙線が検出され、試料中の放射能測定では、フォールアウト核種である、Sr-90、Cs-137、Pu-239,240等が検出されている。
詳細説明 :
環境放射線モニタリングとは、原子力施設の運転、原子力事故、核爆発実験によるフォールアウト、原子力軍艦の寄港などの人間の活動に起因する放射線影響を測定・評価することであり、周辺住民の被ばく線量を評価する上で重要なものとなっている。モニタリングの対象となるのは、空間放射線や種々の環境試料中の放射能であるが、モニタリングにおいて問題となるのはウランやトリウムなどの自然界の放射性物質、及び核爆発実験によるフォールアウト核種の影響である。
原子力施設周辺の環境放射線モニタリングの一つとして、原子力施設から大気中に放出される希ガス等の放射性物質が放出する放射線(γ線)及び放射性塵埃を常時監視するモニタリングポストやモニタリングステーションがある。これらは原子力施設の周辺監視区域境界やその周辺区域に設置され、空間放射線(γ線)及び空気中の放射性塵埃(β線、α線)を常時測定している。空間放射線の測定では自然界の放射性物質である地殻中のウラン・トリウム及びその子孫核種(壊変生成物)からのγ線、宇宙線、コンクリートの建物等に含まれるウラン・トリウム及びその子孫核種からのγ線が測定に影響を与える。また、雨が降れば、大気中に浮遊しているラドンの子孫核種が雨粒に捕捉されて地表面に沈着するため、これらの核種が放出するγ線が影響を与える。空気中の放射性塵埃の測定では、大気中のラドンガスの子孫核種(壊変生成物)からのβ線、α線が測定に影響を与える。モニタリングポストやモニタリングステーションによる測定は、原子力安全委員会が策定した「環境放射線モニタリングに関する指針(2001年3月一部改訂)」に従って原子力事業所が行っている他、地域住民の健康と安全を守る立場から地方公共団体(関連する道府県)が実施している。茨城県が実施した「茨城県における放射能調査(原論文4)によると、東海村及びその周辺地域における空間線量率は20〜40nGy/hであり、そのほとんどは自然界の放射性物質による放射線の影響である。
もう一つの方法として、原子力施設から大気中及び海洋中に放出される放射性物質が周辺環境に蓄積していないかどうかを確認する環境試料のモニタリングがある。採取する環境試料としては、大気浮遊塵、雨水、地表への降下物、飲料水、米、牛乳、土壌、野菜、海水、海底土、魚介類、淡水産食品等がある。施設から放出された放射性物質がこれらの試料にどの程度含まれているかを測定するわけであるが、これらの試料には一般に、自然界の放射性物質やフォールアウト核種が含まれている。つまり、環境試料から検出される放射性核種としては、自然放射性核種であるH-3、Be-7、K-40、Bi-214、Ac-228等の他、核実験によるフォールアウト核種であるSr-90、Cs-137、Pu-239,240がある。これらのモニタリングも原子力事業者と地方公共団体が実施している。測定された環境試料中の放射能濃度の例を図1に示す。

図1 農産物中の放射性核種とその濃度(生試料のγ分析).(原論文4より引用。 )
大気圏内核爆発実験に伴うフォールアウトの調査は1957年から各省庁が独自に行っていたが、1961年の米国、ソ連の核爆発実験再開に伴い、閣議決定により設置された放射能対策本部の方針により、全国規模の「環境放射能水準調査」が実施されてきた。文部科学省(旧科学技術庁)主導の下、放射線医学総合研究所は47都道府県を対象に、雨水、大気塵埃、飲料水、土壌、海水、海底土、飲食物、米、牛乳、野菜、茶、魚介類、海草を集めて、日本分析センターに分析依頼し、Sr-90及びCs-137の濃度を調査している。主な結果を表1に示す。また、海上保安庁は日本各地(9箇所)の海底土中放射能濃度を調査している。その結果を図2に示す。
表1 水道水中のSr-90とCs-137の濃度(1998年度).(原論文5より引用。 )
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Location 90Sr 137Cs
(mBq/I) (mBq/I)
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(Source Water)
Dec,1998
Kisarazu,CHIBA 2 ± 0.15 0.14 ± 0.048
Urawa,SAlTAMA O ± 0.2 0 ± 0.044
Nagano,NAGANO O.84 ± 0.15 0.006 ± 0.044
Tsukui‐machi,KANAGAWA O.43 ± 0.084 0.032 ± 0.038
Inuyama,AICHI 2.1 ± 0.16 0.069 ± 0.0431
Moriguchi,OSAKA 2.8 ± 0.23 0.16 ± 0.049
Fukuoka,FUKUOKA 1.8 ± 0.15 0.13 ± 0.051
Jan,1999
Gifu,GIFU 1.3 ± 0.15 0.006 ± 0.039
Kyoto,KYOTO 17 ± 0.51 0.039 ± 0.043
(Tap Water)
Oct,1998
Sendai,MIYAGI I.2 ± 0.16 0.055 ± 0.05
Nov,1998
Kawachi-machi,TOCHIGI 0.24 ± 0.046 0 ± 0.041
Nagano,NAGANO 0.63 ± 0.11 0 ± 0.041
Tokushima,TOKUSHIMA 1.9 ± 0.18 0 ± 0.041
Kagoshima,KAGOSHIMA 0.46 ± 0.075 0.025 ± 0.041
Dec,1998
Wakkanai,HOKKAIOOU 1.1 ± 0.7 0 ± 0.041
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図2 日本各地の海底土中の放射能濃度 (海上保安庁水路部「放射能調査報告書 平成11年調査結果」). (原論文6より引用。
)
米国の原子力潜水艦の寄港が1964年から、原子力水上軍艦の寄港は1967年から行われてきており、文部科学省、海上保安庁、水産庁、関係する地方公共団体等が協力して放射能調査を実施してきた。寄港地は、横須賀、佐世保、金武中城であり、測定試料は海水、海底土である。試料の採取は原子力軍艦の出港時であり、試料測定は日本分析センターが実施している。
コメント :
原子力事業所及び地方公共団体では、原子力施設周辺の環境モニタリングを実施しているが、環境放射線の検出レベルは自然放射線の変動レベルを十分把握できるほど低くなっている。また、環境試料中の放射能濃度の検出レベルも低くなってきており、近年では出力分析(ICP-MS)を用いた分析が用いられてきている。ウランやプルトニウムなどの核種をより低いレベルまで検出するには魅力的であるが、測定装置が高価なのは難点である。
原論文1 Data source 1:
原子力年鑑 2000年〜2001年
日本原子力産業会議,106-110(2000)
原論文2 Data source 2:
原子力安全白書 平成12年版
原子力安全委員会編,176(2000)
原論文3 Data source 3:
原子力安全白書 平成9年版
原子力安全委員会編,170-171(1998)
原論文4 Data source 4:
茨城県における放射能調査(第44報)1999年4月〜2000年3月
茨城県公害技術センター(2001)
原論文5 Data source 5:
Radioactivity survey data in Japan, Part 1=Environmental Materials=
National Institute of Radiological Sciences (No.128),20(2000)
原論文6 Data source 6:
放射能調査報告書 平成11年調査結果
海上保安庁水路部
キーワード:野外、環境、放射線、放射能、モニタリング、γ線
field, environment, radiation, radioactivity, monitoring, gamma-ray
分類コード:040301,040302,040207