作成: 2003/03/03 伊瀬洋昭
データ番号 :040277
β線による大気浮遊粒子状物質モニタリング
目的 :大気汚染の常時監視へのβ線の利用
放射線の種別 :ベータ線
放射線源 :147Pm線源(3.7MBq)、14C線源(3.7MBq)
利用施設名 :全国の大気汚染常時監視測定局(約1800)など
照射条件 :大気中
応用分野 :降下ばいじん量自動計測、ディーゼル排気粒子排出量計測
概要 :
浮遊粒子状物質自動測定機はβ線吸収法を用いる代表的な環境計測機器である。浮遊粒子状物質(SPM)の環境基準は、10μm以下の粒子の質量濃度の1時間値と日平均値として1972年に定めらたが、当時質量濃度を計測できる機器がなかった。国内メーカによってβ線を用いてろ紙上に捕集した粒子の質量を計測できるβ線吸収法自動測定機が開発され、1981年等価測定法として位置づけられた。線源には3.7MBq以下のPm-147やC-14が利用されている。全測定局の98.9%にあたる1833台をβ線吸収法機器が占め、この技術は降下ばいじん自動測定機などにも応用されている。
詳細説明 :
浮遊粒子状物質自動測定機はβ線を用いる代表的な環境計測機器である。わが国では10μm以下の粒子を「浮遊粒子状物質」(SPM)と定義し、その環境基準を「1時間値の1日平均値が0.10mg/m3以下であり、かつ、1時間値が0.20mg/m3以下であること」と定めている。1976年に制定された当時は質量濃度を計測できる機器がなかったが、その後。国内メーカによってβ線を用いてろ紙上に捕集した粒子の質量を計測できるβ線吸収法自動測定機が開発され、1981年等価測定法として位置づけられた。
β線吸収法は、低いエネルギのβ線を物質に照射した場合、その物質の質量に比例してβ線の吸収量が増加することを利用する測定方法である。透過β線強度と捕集された粒子状物質の質量との関係は、質量吸収係数μmが粒子の組成によらずほぼ一定であるとみなせるので、次式にとおりIとI0の比からXmを求めることができる。
ln(I0/I)=μm・Xm
I:ろ紙と捕集粒子状物質をともに通過したベータ線強度
I0:ろ紙のみを通過した透過ベータ線強度
μm:質量吸収係数(cm2/g)
Xm:SPMの質量(g/cm2)
β線源としてはプロメチウム147(147Pm・半減期2.623年・最大エネルギ0.225MeV)又は炭素14(14C・半減期5730年・最大エネルギ0.156MeV)が用いられ、設置や使用にあたって許可や届出の必要がない3.7MBq以下の線源が用いられている。検出には半導体検出器、プラスチックシンチレーションプローブなどが使われている。
表1 ベータ線吸収法自動測定機の概要(原論文1より引用)
|
日本(国内仕様) |
米国EPA認証 |
線源 |
147Pm |
147Pm |
147Pm |
147Pm |
147Pm |
14C |
14C |
14C |
14C |
85Kr |
14C |
機種 |
SPM
612D
|
SPM
613
|
BRAD
1000
|
DUB
222
|
FPM
222C
|
BAM
1020
|
BAM
102
|
APDA
361
|
GBA
M
1020 |
FH
621N
|
Model
650
|
分粒 |
10/2.5
µm
VI方式 |
10µm
100%除去
サイクロン方式 |
2.5µm
50%除去
インパクタ方式 |
10µm
100%除去
サイクロン方式 |
10µm
50%除去
インパクタ方式 |
検出器 |
プラスチックシンチレーションプローブ |
半導体 |
プラスチックシンチレーションプローブ |
電離箱 |
半導体 |
ろ紙材料 |
テフロン |
ガラス繊維 |
流量 |
160.71/分 |
181/分 |
151/分 |
181/分 |
16.71/分 |
151/分 |
16.71/分 |
18.91/分 |
BAM1020(日本国内仕様)はBeta-Gauge GBAM-1020として、Met One Instrument社が1999年11月10日に認証取得(EQPM-0798-122) |
表1に代表的なβ線吸収法SPM計の仕様を示す。
わが国においては、「密封線源」の定義数量である3.7MBq以下にβ線強度を抑えて製品化を図ったため、もうひとつの等価測定法である圧電天秤法や光散乱法(相対濃度測定法)と比べ、感度面での上で優位性をもちえなかった。圧電天秤法は、SPMを静電的に水晶振動子上に捕集し、質量の増加に伴う水晶振動子の振動数の変化量から質量濃度を求めるものである。感度が非常に高い反面、振動子上の粒子の洗浄を頻繁に行う必要があり、機械的な故障とメンテナンスの煩雑さを伴うものであった。一方、光散乱法は、感度が高く、維持管理が容易である反面、感度が粒子の大きさ、形状、色などに依存し変動するため、年間20回以上、標準測定法との比較によるF値換算が必要であった。
これに対し、ベータ線吸収法は、捕集試料が保存でき、異常値データの判定や維持管理が容易であるなどの特徴があったが、ろ過捕集やβ線計測にともなう様々な問題があり、それらの解決が鍵を握っていた。高濃度時の流量維持や空気密度補正、ろ紙送り精度やろ材の改善など各メーカーによる改良が図られ、維持管理面からも高濃度時負荷条件下での流量制御の確認なども徹底された。これらの改良や精度管理によって、はじめてβ線吸収法の利点が引き出され、実用化が図れたといえる。常時監視機器として使用されるためには、年間6000時間を超える測定時間が必要条件とされていたが、故障が少ないことや短時間でメンテナンスできる点でも、β線吸収法測定機は優れていた。

図1 日本における浮遊粒子状物質自動測定機に占めるベータ線吸収法の割合(原論文1より引用)
その結果、現在では全測定局のSPM計の98.9%にあたる1833台をβ線吸収法機器が占めるにいたっている(図1)。β線吸収法は、そのほか微小粒子(PM2.5)、降下ばいじん等の自動測定機、自動車排気粒子計測装置なども製品化が試みられている。
コメント :
ベータ線吸収法の感度は、3.7MBq以下という線源強度の制約を受ける。米国ではPM2.5の新環境基準がすでに1997年に導入され、わが国でも環境省が「微小粒子状物質(PM2.5)質量濃度測定方法暫定マニュアル」を策定しており、β線吸収法の性能向上が重要な課題となっている。PM2.5の米国環境基準値(年平均値)は15μg/m3という低濃度であり、わが国でも同レベルの平均値が基準値となると、現状のままでは、β線吸収法では十分な感度が得られないことが懸念される。そのため、感度の優れたフィルタ振動法(Tapered Element Oscillating Microbalance Method)や光散乱法が今後主流になる可能性もある。
規制免除レベルの見直しにより線源強度として10〜100MBqが確保されるならば、測定感度の向上が得られ、捕集試料をろ紙上に保存でき削減対策のために必要な発生源推定にも利用しうるβ線吸収法の特長を生かした全国的モニタリング態勢が整うものと期待される。
原論文1 Data source 1:
浮遊粒子状物質の連続モニタリングで活躍する放射線
伊瀬洋昭
東京都立産業技術研究所 〒158-0081 東京都世田谷区深沢2-11-1
放射線と産業,96,23-26(2002)
原論文2 Data source 2:
JIS B7954-2001 大気中の浮遊粒子状物質自動測定器
日本規格協会
日本規格協会 〒107-8440 東京都港区赤坂4-1-24
JIS B7954-2001 大気中浮遊粒子状物質自動測定器
キーワード:大気汚染、浮遊粒子状物質、環境基準、β線、自動測定機、β線吸収法、プロメチウム147、炭素14
Air pollution, Suspended Particulate Matter, Environmental Quality Standard, Beta ray, Automatic Monitor, Beta Ray Attenuation Method, Promethium147, Carbon14
分類コード:040305