MGy（メガグレイ）レベルの大線量計測

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作成： 2004/10/26 小嶋拓治データ番号　　　：040298 MGy（メガグレイ）レベルの大線量計測目的　　　　　　：材料・機器部品の耐放射線性評価放射線の種別　　：エックス線,ガンマ線,電子,中性子放射線源　　　　：⁶⁰Co線源（8PBq）線量（率）　　　：0.2-15kGy/h 利用施設名　　　：日本原子力研究所高崎研究所コバルト60ガンマ線照射施設照射条件　　　　：大気中、常圧応用分野　　　　：原子力、放射線利用、宇宙開発、材料、耐放射線性試験概要　　　　　　：　原子力施設、大型加速器施設、及び人工衛星等における放射線場で長時間にわたって使用される電線被覆材、モーター等機器部品などは非常に大線量の放射線に曝される。このような材料・機器については、一般的に使用環境における積算線量の実測が困難であるため、それらの使用耐用年数（余寿命）の予測、あるいは耐放射線性のある新しい材料・機器の開発を目的として模擬環境条件下における耐放射線試験が行われている。そして、この目的のためのMGｙレベルの線量測定技術が開発されている。詳細説明　　　　：　近年、原子力発電所、高エネルギー加速器施設、人工衛星などの放射線場で使用される電線ケーブル類、モーターなど材料・機器部品類の模擬環境下における耐放射線性試験が行われている。こうした放射線施設に既に付設されている材料・機器部品については、例えば、原子力発電所の場合では、線量計を用いて点検から次の点検までの間の積算線量を実測することにより、材料等の付設してからの耐用年数を見積もることも可能である。しかし、実際の場における測定は、放射線の種類、線量率、あるいは照射環境条件が安定しないことなどから困難な場合が多い。このため、一般的には、放射線の照射量や照射環境条件を制御しやすいγ線や電子線などを用いて、材料・機器部品が使用される環境を模擬した条件下における機械的強度、絶縁性強度などの耐放射線性試験が行われている。また、その結果に基づいて、既に付設されている材料等が今後どれだけ使用できるかという余寿命の評価や、例えば電線ケーブル被覆材の場合では配合を変えるなどによる材料開発が行われている。このような模擬環境下での耐放射線性試験においても、実際の場における測定と同様に、温度等の照射環境条件の変動などの影響を受け難く、長時間にわたって線量数千kGy（MGy、メガグレイ）レベルの積算測定が可能な線量計が必要である。　これまでに、LiF結晶またはポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの着色、石英結晶粉末中の欠陥の電子スピン共鳴測定、グルコース水溶液の旋光度変化、ポリイソブチレン・ヘプタン溶液の粘度変化などを利用した線量計などが報告されている(参考資料1、2、3)。ここでは、これ以外の最近開発された2種の線量計を紹介する。　 (1) 着色酸化アルミニウム皮膜線量計　国際熱核融合実験炉(ITER: International Thermonuclear Experimental Reactor)では、プラズマを閉じ込めるドーナツ型真空容器の内部に、核反応で生じる中性子を吸収し熱として取り出すためのブランケットや核融合反応の廃棄物であるヘリウムガスを除去するダイバータなどの構造物があり、これらの点検、保守、交換は、マニピュレータをつけた遠隔保守装置によって行われる。保守装置は、真空容器内で50から100℃(恒温)及びkGy/hレベルの高線量率のγ線にさらされるため、100MGyオーダーの耐放射線性が求められている。これに伴い、保守装置を構成する主要機器・部品の耐放射線性試験、あるいは、保守装置の放射線損傷による信頼性の低下の予測、高γ線量率下で保守装置各部の照射量のモニターに使用する線量計が開発された(原論文1)。　　着色酸化アルミニウム皮膜線量計(カラー線量計)は、アゾ系の染料の光退色を応用した色素線量計の一種である。アルミニウム合金製薄板（A5052）表面に、電解で作った酸化アルミニウム（Al₂O₃）被膜中に赤色色素Aluminum Fiery Red ML, GBM(ともに含金属線量と非含金属の2種のアゾ系の染料の混合)を含浸させた構造となっている。染料は5～30μmの膜厚に依らず、その約半分の深さまで含浸していると考えられる。γ線照射によるアゾ染料の退色変化は、分光式色差計を用い、マンセル色立体に基づく色相及び明度の変化として測定する。試験では、5～30μmの範囲で酸化膜厚の異なる着色酸化アルミニウム試料を作製し、染料の種類、退色特性、照射中の温度の影響、及び紫外線の影響について調べた。　その結果、線量に伴う退色変化を図1に示すように、線量率10kGy/h の場合では5MGyから70MGyの線量範囲を測定できることが分かった。また、酸化被膜の厚い試料は薄い試料に比べて照射温度や紫外線の影響を受け難いこと、照射中の温度が50℃以下では温度が高いほど放射線による退色程度が低いが、75～100℃では退色は促進されること、などの特性があることが明らかにされた。図1　赤色試験用試料の退色変化／特性試験(大気、室温、線量率:10kGy、染料種:TAC Fiery Red-GBM)（原論文1より引用）　 (2)ポリエチレンからの水素発生ガス測定に基づく線量計　ポリエチレンフィルムを照射すると水素ガスなどの分解ガスが発生する。特に、真空中で照射した場合には分解ガスの大部分（99%以上）が水素である。水素ガス量から照射線量を求める線量計が、欧州合同原子核研究機関（CERN）で1980年頃から例えばスーパー陽子シンクロトロン（SPS）内における電磁石コイルの絶縁用エポキシ樹脂の劣化評価などに使用されたことがある(参考資料4)。最近この手法を改良した線量計システムが日本原子力研究所で開発された(原論文2)。　　工業生産されている超高分子量ポリエチレン（UHM-PE）のチューブ(外径6mm、内径4mm)を長さ30mmに切断して一定の重量(0.43ｇ)とし、ガラス管に入れ10^-³Torrに脱気して封ずる。放射線照射によりガラス管内に発生した水素ガスの量は、真空ラインと圧力計で構成される装置(図2)を使い、μモルのレベルで計測する。この装置は、真空中でガラス管を破るための電磁ハンマー付きの「試料室」、真空計測センサー(MSKバラトロン、精度:±0.01Torr/フルスケール100Torr)、真空ポンプ及び真空バルブから構成されている。　　このシステムを用いることにより、1kGyから7MGy程度の線量範囲を精度±1％で測定できる。照射時の温度の影響は50℃までは認められないが、図３に示すように、200℃までは+0.3％/℃程度である。図2　Equipment for measurement of gas yield stored in glass tube（原論文2より引用）図3　Irradiation temperature dependence on gas evolution for UHM-PE irradiated at various temperatures after evacuation（原論文2より引用）コメント　　　　：　原子力発電所や大型加速器施設が増えてきており、材料・機器部品の耐放射線性評価の重要性が高まっている。これに伴い、日本では、電線ケーブルなどの耐放射線性試験に関して、「電気絶縁材料の耐放射線性試験方法通則(JEC-6152, 1996)」が定められている。また、10^-²～10⁴Gyの線量域で行う半導体材料の耐放射線性試験については、試験方法に関する規格はないが、関連するものとして、米国材料試験協会（ASTM）の規格 E668-00「Standard practice for application of thermoluminescence-dosimetry (TLD) system for determining absorbed dose in radiation hardness testing of electronic devices」(2004)がある。　なお、kGy/hオーダーの測定が可能な高線量率計として、TiO₂の薄膜表面を持つAl₂O₃素子の表面活性化現象を利用したRISA（Radiation Induced Surface Activation）検出器(参考資料5)がある。原論文１ Data source 1：着色酸化アルミニウム被膜線量計の開発小原建治郎¹、八木敏明²、横尾典子³、柴沼清¹ ¹日本原子力研究開発機構那珂核融合研究所 ²日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所 ³(財)放射線利用振興協会 JAERI-Tech 2003-035 (2003) 原論文２ Data source 2：ポリエチレンの放射線分解ガス生成と線量計への応用春山保幸、須永博美、荒川和夫、瀬口忠男日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所 JAERI-Tech 2002-084 (2002) 参考資料１ Reference 1： ESR dosimetry in the“gigarad”range A. Wieser, D.F. Regulla Gesellschaft fur Strahlen- und Umweltforschung(GSF) Appl. Radiat. Isot., 40, 911-913 (1989) 参考資料２ Reference 2：旋光度変化を利用したメガグレイレベルのグルコース線量計小嶋拓治、神沢康弘、田中隆一、吉田健三日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所 JAERI-M　87-201 (1987) 参考資料３ Reference 3： Dosimetry for radiation processing W.L. McLaughlin, A.W. Boyd, K.H. Chadwick, J.C. McDonald and A. Miller (Editors) Taylar & Francis, London, 1989 参考資料４ Reference 4： Compilation of radiation damage test data, PartⅢ: Materials used around high-energy accelerators P. Beynel, P. Maier and H. Shoenbacherr European Organization for Nuclear Research (CERN) CERN 82-10 (1982) 参考資料５ Reference 5： Development of radiation detector using radiation induced surface activation T. Takamasa¹, T. Hazuku¹, N. Tujimura², K. Okamoto³, H. Tomozawa⁴, J. Nakata⁵, H. Date⁵ ¹Tokyo Univ. of Marine Science and Tecknology ²Japan Nuclear Cycle Development Institute ³Tokyo Univ. ⁴Kyosemi Corp., Eniwa, Hokkaido ⁵Hokkaido University J. Nucl. Sci. Tech., Supplement 4, pp.152-155 (2004) キーワード：放射線環境、材料試験、耐放射線性、大線量計測、線量計、原子炉、加速器、放射線施設、宇宙、電線被覆材、部品 radiation environment, materials’ testing, radiation hardness, high-dose dosimetry, dosimeter, nuclear reactor, accelerator, radiation facility, space, cable insulating, parts 分類コード：040302
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