放射線源としての原子炉

名称	所有者	所在地	主目的	形式	熱出力（KW)	初臨界日
1 JRR-2	原研	東海村	基礎研究、燃料・材料照射、RIの生産開発・研究	濃縮ウラン、重水減速重水冷却、非均質型	10,000	S35.10.1
2 JRR-3	原研	東海村	基礎研究、燃料・材料照射、RIの生産・開発研究	低濃縮ウラン軽水減速冷却プール型	20,000	H2.3.22(37.9.12)
3 JRR-4	原研	東海村	遮へいに関する工学的研究、各種試料の照射、教育訓練、開発研究	濃縮ウラン、軽水減速軽水冷却、スイミングプール型	3,500	S40.1.28
4 JMTR	原研	大洗町	原子炉燃料、材料照射、RIの生産	濃縮ウラン、軽水減速軽水冷却、タンク型	50,000	S43.3.30
5 NSRR	原研	東海村	原子炉の工学的安全性研究	濃縮ウラン、水素化ジルコニウムおよび軽水減速軽水冷却、非均質型（スイミングプール円環炉心出力パルス両用炉）	定出力運転時300 パルス運転時23,000MW	50.6.30
6 HTTR	原研	大洗町	高温ガス炉の技術基盤の確立と高度化のための試験研究、高温に関する先端的基礎研究	低濃縮二酸化ウラン被覆粒子燃料、黒船減速ヘリウム冷却型	30,000	平成10年度臨界予定
7 高速実験炉（常陽）	動燃	大洗町	高速増殖炉の開発	ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料、ナトリウム冷却高速炉	MK-I炉心75,000	52.4.24
MK-II炉心100,000	57.11.22
8 近畿大学炉（UTR-KINKI)	近大	東大阪市	教育訓練用、研究用および共同研究用	濃縮ウラン、軽水減速、非均質型	1W	36.11.11
9 立教大炉（RRR)	立教学院	横須賀市	研究および教育用	濃縮ウラン、水素化ジルコニウムおよび軽水減速軽水冷却、非均質型（TRIGA-II)	100	36.12.8
10　武蔵工大炉（MITRR)	五島育英会	川崎市	研究および教育訓練ならびにRI生産用	濃縮ウラン、水素化ジルコニウムおよび軽水減速軽水冷却、非均質型（TRIGA-II)	100	38.1.30
11 京都大炉（KUR)	京大	熊取町	一般研究、材料照射、RI生産、開発研究、医療照射、教育訓練	濃縮ウラン（一部低濃縮ウラン）、軽水減速軽水冷却、非均質型	5,000	39.6.24
12 東京大炉（弥生）	東大	東海村	一般研究および教育訓練用	濃縮ウラン、空気冷却型高速炉	2	46.4.10
13　　TTR-1	東芝	川崎市	一般研究および教育訓練用	低濃縮ウラン、軽水減速軽水冷却、スイミングプール型	100	37.3.

放射線利用技術データベースのメインページへ
作成： 1999/01/23 柴田　誠一データ番号　　　：049006 放射線源としての原子炉目的　　　　　　：原子炉・加速器線源（中分類）を解説概要　　　　　　：　1、核分裂の発見　2、核分裂連鎖反応　3、臨界量　4、原子炉　5、原子炉の構造　6、原子炉の分類　7、研究用原子炉　　京都大学研究用原子炉(KUR) 　　京都大学臨界集合体実験装置(KUCA) 　8、照射利用　9、ビーム利用詳細説明　　　　： 1. 核分裂の発見　1939年、ハーンとシュトラスマンは中性子照射したウランから生成する放射性物質の中に、バリウムやランタンと全く同じ化学的挙動をする放射性核種の存在を確認した。マイトナーとフリッシュは、この新しい核反応はウランの原子核が2個の小さい破片に割れることであると考え、この現象を細胞分裂との類似から核分裂と命名した。　 2. 核分裂連鎖反応　この現象の重要な点は、分裂の過程で～200MeVという多量のエネルギーが放出されることと、同時に2～3個の中性子が放出されるということであった。この中性子により順次新しい核分裂が引き起こされ、更に中性子が放出される。この一連の反応を核分裂連鎖反応という。すなわち、1個の中性子がウランを核分裂させると、核エネルギーの放出と同時に2～3個の中性子が生成する。そして、これらの中性子が次の核分裂を起こし、より多量のエネルギーと新たな中性子を発生させ、この中性子によりさらに次の核分裂が起こり反応が続いていく。　　天然に存在するウランは、²³⁴U、²³⁵Uおよび²³⁸Uの3種の放射性同位体の混合物である。このうちこの連鎖反応を維持するのに重要なのは、低エネルギーの中性子で核分裂を起こす²³⁵U(存在度：0.72%)である。　 3. 臨界量　連鎖反応を持続させるのに必要な²³⁵Uの最小量を臨界量という。この条件は一般に増倍係数kで表される。ここでkはある世代の中性子の数とそのすぐ前の世代の中性子の数との比、つまりある世代の中性子によって起こされる核分裂の数とその世代の中性子を発生させる核分裂の数の比で、k < 1では連鎖反応を持続させることは不可能であり、この状態を未臨界状態という。k=1では、連鎖反応は定常的に維持され、臨界状態となる。k > 1の時は臨界超過状態であるという。　 4. 原子炉　原子炉とは、この核分裂連鎖反応を制御しながら進行させる装置であり、いいかえると原子炉は臨界量または臨界超過量の核分裂物質を装荷し、中性子吸収体を用いて中性子の数を制御しながら、k=1の状態で運転する装置である。世界初の原子炉はフェルミの指導の下、1942年にシカゴ大学構内につくられたものでCP-1と呼ばれる。　　この“人工 " 原子炉に対し、自然に連鎖反応が臨界に達して起こった“天然 " 原子炉(オクロ現象)が約20億年前の地球上で作動していたことが、1972年フランスの科学者チームにより発見された。　 5. 原子炉の構造　原子炉は基本的には核燃料、冷却材、減速材からなる炉心を反射体で囲んだものから構成される。それに連鎖反応率を制御するために炉心へ中性子吸収体を挿入するための制御棒が設置されている。原子炉の中心部分の概念図を図1に示す。図1　原子炉の中心部分の概念図（参考資料1より引用）　核燃料は、核分裂によりエネルギーを発生する物質であり、この時同時に高速中性子も生じる。これを低速にまで減速させ、次の核分裂反応が起こるようにするために用いるのが減速材である。冷却材は原子炉を冷却して正常な動作を維持させるためのもので、また核分裂により発生したエネルギーを発電のために取り出す役割を果たしている。制御棒は原子炉の安全運転の持続に必要なものであり、運転停止のためにも用いられる。　 6. 原子炉の分類　原子炉は、いろいろな見地から分類されている。核分裂連鎖反応を引き起こす中性子の運動エネルギー(炉心の中性子エネルギースペクトル)により、高速中性子炉、中速中性子炉、熱中性子炉に分類できる。核分裂では高速中性子が生成する。熱中性子炉では減速材により、高速中性子を熱エネルギーまで減速する。この減速材に軽水を用いるのが軽水炉であり、重水を用いるのが重水炉である。中性子エネルギーを知るための指標として、しばしば用いられる値にカドミウム比がある。これはカドミウムが熱中性子に対して吸収断面積が大きいことを利用している。　　原子炉の運転中は核分裂により多量のエネルギーが放出される。このエネルギーを熱として取り出し動力源として用いるのが動力炉(発電炉)であり、この代表的なものとして加圧水型原子炉(PWR)と沸騰水型原子炉(BWR)がある。一方核分裂により放出される中性子を利用するのが研究炉である。この場合中性子を利用するのが目的であるから炉心温度は上昇しないように配慮されている。　 7. 研究用原子炉　研究炉は、原子力開発の初期において燃料の挙動試験や材料の特性評価等、原子力発電技術確立のための研究開発に多く利用されてきた。最近では、原子力以外の地球・環境科学、生命科学、考古学等の基礎科学のほか、医療照射、RI製造等極めて広い分野に利用が広がり、著しく多様化している。研究炉は中性子源として重要であり、原子炉内の中性子場の利用のほか、最近では中性子のビームとしての利用も増えている。わが国の研究用原子炉を表1に示す。また研究炉の一例として京都大学研究用原子炉(KUR)と京都大学臨界集合体実験装置(KUCA)について紹介する。表1　わが国の研究炉（参考資料2より引用）名称所有者所在地主目的形式熱出力（KW) 初臨界日 1 JRR-2 原研東海村基礎研究、燃料・材料照射、RIの生産開発・研究濃縮ウラン、重水減速重水冷却、非均質型 10,000 S35.10.1 2 JRR-3 原研東海村基礎研究、燃料・材料照射、RIの生産・開発研究低濃縮ウラン軽水減速冷却プール型 20,000 H2.3.22(37.9.12) 3 JRR-4 原研東海村遮へいに関する工学的研究、各種試料の照射、教育訓練、開発研究濃縮ウラン、軽水減速軽水冷却、スイミングプール型 3,500 S40.1.28 4 JMTR 原研大洗町原子炉燃料、材料照射、RIの生産濃縮ウラン、軽水減速軽水冷却、タンク型 50,000 S43.3.30 5 NSRR 原研東海村原子炉の工学的安全性研究濃縮ウラン、水素化ジルコニウムおよび軽水減速軽水冷却、非均質型（スイミングプール円環炉心出力パルス両用炉）定出力運転時300 パルス運転時23,000MW 50.6.30 6 HTTR 原研大洗町高温ガス炉の技術基盤の確立と高度化のための試験研究、高温に関する先端的基礎研究低濃縮二酸化ウラン被覆粒子燃料、黒船減速ヘリウム冷却型 30,000 平成10年度臨界予定 7 高速実験炉（常陽）動燃大洗町高速増殖炉の開発ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料、ナトリウム冷却高速炉 MK-I炉心75,000 52.4.24 MK-II炉心100,000 57.11.22 8 近畿大学炉（UTR-KINKI) 近大東大阪市教育訓練用、研究用および共同研究用濃縮ウラン、軽水減速、非均質型 1W 36.11.11 9 立教大炉（RRR) 立教学院横須賀市研究および教育用濃縮ウラン、水素化ジルコニウムおよび軽水減速軽水冷却、非均質型（TRIGA-II) 100 36.12.8 10　武蔵工大炉（MITRR) 五島育英会川崎市研究および教育訓練ならびにRI生産用濃縮ウラン、水素化ジルコニウムおよび軽水減速軽水冷却、非均質型（TRIGA-II) 100 38.1.30 11 京都大炉（KUR) 京大熊取町一般研究、材料照射、RI生産、開発研究、医療照射、教育訓練濃縮ウラン（一部低濃縮ウラン）、軽水減速軽水冷却、非均質型 5,000 39.6.24 12 東京大炉（弥生）東大東海村一般研究および教育訓練用濃縮ウラン、空気冷却型高速炉 2 46.4.10 13　　TTR-1 東芝川崎市一般研究および教育訓練用低濃縮ウラン、軽水減速軽水冷却、スイミングプール型 100 37.3. 　 8. 照射利用　原子炉で定常的に生成する熱中性子は、電荷をもたないため、多くの原子核と容易に核反応を起こす。このことを利用して様々な研究が行われている。代表的なものとして、　　材料照射効果の研究：　中性子の照射より材料中に引き起こされた照射効果を調べるもの、放射化分析：高感度でしかも試料を破壊することなく多元素同時測定が可能な微量元素分析法、　　放射性同位体製造利用：　照射により生成した放射性同位体を用いた標識化合物の合成と利用、トレーサー利用研究などがある。　　近年、通常の放射化分析ばかりでなく、中性子捕獲反応の際に放出される即発ガンマ線測定による即発ガンマ線分析が注目されている。また、照射効果を用いて新しい材料を作る、あるいは物性を改良するという観点からは、たとえばシリコンの照射利用等は工業的にも重要な役割を成している。　 9. ビーム利用　　中性子の粒子性、波動性を利用する代表的な研究として、中性子回折、中性子ラジオグラフィーがある。これらの方法は特に材料科学における物性・構造の研究に重要である。中性子回折では原子炉で生成する熱中性子が物質中の原子間距離と同程度の波長をもつことを利用する。すなわち、物質中で散乱された熱中性子線は光と同様に干渉性を示す。この性質を利用して結晶の物性や構造の研究がなされる。特に、水素原子など軽い原子の位置決定に有効である。最近では、原子より大きい高分子や生体分子の構造を正確に調べるために、熱中性子よりもエネルギーの低い(波長の長い)冷中性子が注目されている。　　中性子ラジオグラフィーは、X線やγ線によるラジオグラフィーと同様に物質の透過像を得る技術であり、非破壊検査の一方法である。試料を中性子で照射し透過してきた中性子をコンバーターでα、βあるいはγ線に変換し、フィルムなどでその像を得るものである。X線やγ線と比較した時の利点は、重い原子では中性子線の方が吸収係数が小さいことであり、そのため特に大量の重い原子を含む物質の検査に適している。また、熱中性子よりエネルギーの高い熱外中性子、さらに高い高速中性子、エネルギーの低い冷中性子を利用する技術も発展してきており、エネルギーの違いによる中性子透過度の差を有効に利用することが可能となっている。　　研究炉における研究の変遷の例として、京大炉(KUR)における共同利用研究の変遷を図2に示す。図2　利用方式別にみたKUR共同利用研究の変遷（参考資料3より引用）　参考資料１ Reference 1：物理学辞典物理学辞典編集委員会培風館　1992年発行　p.612 参考資料２ Reference 2：研究炉利用の現状と今後の課題(特集　日本の研究用原子炉--現状と展望--) 石榑　顕吉東京大学工学部原子力工業,　39巻, 11号　1993年　p.4-9 参考資料３ Reference 3： Ⅲ-2 利用の動向と展望(特集　研究用原子炉の現状と将来) 宇津呂　雄彦、森山　裕丈京都大学原子炉実験所日本原子力学会誌,　38巻, 11号　1996年　p.885-888 キーワード：分類コード：040198
放射線利用技術データベースのメインページへ