JRR-3の産業利用調査研究事業
事業の概要
JRR-3の産業利用調査研究事業では、10年ぶりに再稼働した研究用原子炉「JRR-3」が提供する中性子線の産業利用を促進するため、稼働中の大型加速器中性子施設J-PARCと対比しつつ中性子線の産業利用の動向を調査・分析し、利用支援制度のあるべき姿について検討しました。
市場規模が4兆円とも見積もられる放射線の利用において、中性子線の利用は産業界の中でもユニークな地位を占めています。医療用放射性同位元素(RI)製造や耐放射線材料の開発を始め、物質の微視的構造解析手法、非破壊的な元素分析やCT解析手法に不可欠な分析ツールとして、その活用が盛んです。中性子線はX線には無いユニークな特徴を持つため、これからの我が国の産業競争力の維持や新技術振興のためには、なくてはならない重要な放射線です。文部科学省は、中性子線が我が国の産業競争力の強化や国民生活の向上に寄与するものとして産業利用を強く推奨しています。
我が国で先端的な研究ツールとして本格的に中性子線を産業利用に提供できる大型施設は、日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同で管理・運営する大強度陽子加速器施設(J-PARC)の物質・生命科学実験施設(MLF)とJAEAが管理・運営する研究用原子炉「JRR-3」の2施設です。
J-PARC/MLFは平成20年(2008年)に出力100kWで運転を開始して以来、順調に出力を上げながら利用運転されて来ており、学術・産業界の研究開発において重要な役割を果たしています。一方、JRR-3は東日本大震災以降、耐震強化等の原子炉規制の強化策に適合すべく対応を行っていたため、利用運転が永らく停止されていましたが、令和3年2月26日から定格出力20MWで運転が再開され、7月12日には供用運転も開始されました。これにより我が国は、名実ともに加速器・研究炉両施設による大強度中性子線の学術・産業利用が可能な時代を迎えました。
しかしながらコロナ禍のため、利用運転が継続されているJ-PARC/MLFにおいては、昨年度から今年度にかけて産業利用件数が大幅に落ち込んでいます。また、実施されている課題においてもコロナ対策により施設の利用方法が様変わりしており、課題の実施形態はリモート実験ないしは試料の送付によるメールイン測定代行が増加しています。このような利用方法の変化は国内施設に限らず海外施設の利用においても同様に生じていて、逆説的に国内外の中性子施設の利用に対する障壁を下げる効果をもたらしています。コロナ禍で生じた新たな状況も踏まえ、放射線利用振興協会では、広く量子ビーム施設における産業利用支援の状況を調査し、JRR-3に最適な産業利用の促進策を取りまとめることを企画しました。本調査研究事業は、(一財)新技術振興渡辺記念会のご支援を受けて令和3年11月から令和4年10月の期間内で実施しました。